特集5/対談

町工場に生活ボックスを挿入する 首都大学東京 須永研究室 ホームページへ

高齢の父親にあたたかい箱を

―― この鉄工所自体は戦後しばらくして建てられたということですね。その時期の建物はどんどん減り、壊して更地にしてしまうケースが多いようです。このあたりは工場が多かったのですか。
須永修通 私が子どもの頃にはすぐ近くの隅田川の水運を利用する工場がたくさんありました。それから、この鉄工所の前の道はこの町の商店街でした。
藤江 創 映画「三丁目の夕日」のような、なつかしい風景があったようです。
―― おふたりの研究テーマは建築のストック活用や熱環境にかかわることなので、このプロジェクトはぴったりでしたね。
藤江 そうですね。ただ、もともとは研究対象として始まったことではありませんでした。須永先生の父上が病気をされてベッドですごす時間が多くなり、どうにかしようというときに相談を受けたのです。最初の話では、水まわりを少し改良したいということでした。
須永 この鉄工所は増築を繰り返しています。50年ほど前、最初に父がつくった建物は木造の平屋でした。裏手にだんだんと付け足していったような具合です。2階が住まいでしたが、父が上り下りできなくなり、1階の、もとは職人の住み込みのための4畳半の部屋を使わざるをえなくなりました。兄夫婦の家へ行くか、建て替えるかという話も出たのですが、父は首を縦に振りませんでした。ここを離れたくないと。
藤江 慣れ親しんだものを残しながら増築や改築をするということであれば、ある程度心がやわらぐのでしょうね。
須永 とにかく、1階にちゃんとした部屋をつくりたい、父がいつでも自由に使える風呂やトイレも設置したい、というのが始まりです。また、父は「寒い」と言っていました。確かに、足を触ると冷たくて、羽根布団などを何枚もかけて寝ている状態でした。部屋の中では冷やされた空気が下がってくるので、暖房していても上部が30℃で床近くが16℃という状況は一般の住宅でよくみられます。人は足元で約26℃、頭は約22℃が快適に感じられます。また高齢者は、快適な温度域が狭くなります。それで、断熱をよくして床暖房を入れたいと思いました。
藤江 既存の建物内に新しい部屋と水まわりをつくる方向で話が進んだわけですが、その折、首都大学東京の研究で協力いただいていた建材メーカーの担当者が大学時代の先輩に代わったばかりで、熱橋(ヒートブリッジ)のないボックスをつくりたいと相談したところ、のってくれました。その結果、既存の製品を組み合わせながら、断熱材のみでパネルを製作し、ボックスをつくることになったのです。
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