特集2/ケーススタディ

体験の再点検から建築という行為へ 菊地宏建築設計事務所 ホームページへ

 路地を入ると風が違った。東京の裏路地らしくそこここに緑が見える。なつかしき路地裏。人ひとり通らない昼下がりは心地いい。
 3軒目に住宅のスケールをオーバーする大きな窓ガラスが見えた。壁とひとつながりになって、そこに映り込んだ緑。ガラスへの映り込みと反射がこの家を規定しているのだとたちまち納得する。建築雑誌で見た写真と頭のなかで重なる。「松原ハウス」だ。
 外壁はモルタル。見慣れた質感だけれど、エンジ(臙脂)に塗られている。が、色への抵抗感はない。近頃、流行の土色、櫛目の壁にも慣れているが、このエンジにも違和感はない。
 菊地宏さんは、このエンジを周辺の緑との補色関係によって選んだという。色見本帳で示しておけば塗装時に多少転んでもあまり失敗はない色だとも。「幅をもっている色でもある」と言う。日本の伝統色だからということもあるかもしれない。補色は色の喧嘩を避ける。周辺の緑の色彩を生かせるというところがエンジの外壁のポイントらしい。
 ガラスはまわりの景色を映し込むことが想定されている。菊地さんがガラスに期待するのは透明性より反射。「赤茶けた岩肌、山の緑を映す池。葉っぱが水に落ちる。波立つ水面の記憶。なつかしさを感じる」。記憶のなかの景色がここに生きているという。
 もうひとつ、ガラスとエンジの壁で菊地さんが指摘するのは、エンジ色が建物の北側にあるという点。太陽の直射光が当たる南側ではエンジは際立つが、北側、陰の側ではその存在感を弱め、景色に溶け込ませることができる。と同時に北側のガラスは反射効果が高く、これも景色に溶け込んでいく効果があるということ。確かにファサードとなる北面、陰のなかでは色を感じさせない。
 施主はもとより、ご近所からも色彩に関する違和感はまったく指摘されていない。自然な色彩として受け入れられているようだ。

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