特集4/ケーススタディ

原点はピクチャーウインドー

 この住宅はもともと2×4工法の建て売りで、中古住宅として販売されていた。施主のSさんが購入したときには築8年。立地や、室内からの景観は気に入っていたものの、夫妻ともに建物自体に思い入れはまったくなかった。薄いピンク色で、装飾が中途半端に施された外装。特徴のない個室が並ぶプラン。そこで、以前から雑誌などで見て気に入っていた納谷学さん・新さんにSさんは「外も内も一新してほしい」と依頼した。
 いざ現状調査をすると、造成地の地盤沈下が起こっていたことが判明。家は傾いており、南北の端から端まで、最大で7cmのレベル差があった。計画は難航し、当初は新築も勧めていたが、予算やスケジュールの関係からリノベーションすることに決定。基礎部分については、建物の下をトンネル状に掘っていき、25カ所で直径139.8mmの鋼管杭を50㎝ずつ入れて継ぎ足し、約15m下の支持層に到達。地盤にかかわる改良で約500万円かかったが、ようやく問題をクリアし、将来的な安心も確保した。
 既存建物の西側には庭があり、建物には建ぺい率、容積率ともに余裕があった。納谷さんたちは、増築する案にすぐに至った。増築部分は既存の住宅に合わせて2×4工法で計画。特注金物で両者を緊結し、一体化している。これは地震時の挙動を既存部分と揃え、構造計算をしやすくするためだ。
 また、2×4工法では構造体となる外周壁や間仕切り壁を間引くことが容易にはできないが、増築部分の外周の壁を新しい構造壁とし、2階床(図書スペース)で既存住宅と増築部分をつなげて剛性を高めることで、既存の外周壁を一部撤去しながら広い空間を生み出せるようになった。1階では既存のLDKが広げられ、2階では図書スペースが増床された。そして、ふたつのテラスを既存と増築部分のあいだにつくっている。
 増築部分の壁や勾配天井には、外を眺めるための窓が設けられた。「ピクチャーウインドーが最初の発想でした。公園の景色や空が窓で切り取られ、室内に飾る絵と同列になります」と納谷さんたちは語る。

  • 前へ
  • 2/4
  • →
  • Drawing
  • Profile
  • Data

TOTO通信WEB版が新しくなりました
リニューアルページはこちら