特集1/エッセイ

 もちろん、力ずくで一気に、その建物を修復したい、という誘惑もあった。新たに屋根を葺き、壁に漆喰を塗り、窓をはめ込む。その後に、その建物の性格はまったく変わってしまっているだろうが、使い方が変わるという点からいえば、それは正しい行為だ。しかし、建物は、物的な存在という以上の何かを表している。単なる石、木、漆喰の寄せ集め以上のものなのだ。建物がもつ意味は、その大きさや歴史的な豊かさでは決まらない。むしろ敬意を表すべき建物と不可分なひとつの要素といえる。建物のもつ意味とは、まさにその建物と結びついた特性でもある。建物の中心というより、むしろその建物のアイデアや歴史から結果として生まれてくるひとつの価値だ。どんな建物にも本来備わっている気品であり、本来のその建物らしさなのだ。建物が新しくても古くても、壊れていても、付属的な建物でも関係ない。
 今回の豚小屋は付属的な建物だ。通りから少し離れて立ち、その存在など誰も気にもかけなかった。その小さな建物は、明確に機能的な目的をもって設計された建物の代表例といえた。1階は豚たち用で、2部屋に分かれ、飼料を出す扉があり、その上に屋根裏部屋式の飼料置き場、その奥の少し高くなった場所に家畜の番人部屋がある。豚がいなくなった後は、いわば建物の石造の外殻のみが残り、ゴミ置き場として使われていた。その建物自体はもう必要とされていなかった。増築部や軒が、その建物をさらに不恰好にしていた。

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