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インタビュー

高齢者の「こうありたい」に寄り添う“自立して暮らせる”水まわりの環境整備とは?

story17 高齢者の「こうありたい」に寄り添う“自立して暮らせる”水まわりの環境整備とは?

日常のさまざまな場面で困難を抱える高齢者。とはいえ、家族や介護スタッフが先まわりしてなんでもやってしまうと本人の気力や体力が低下し、かえって介護の必要性が増すと言われています。
一緒に暮らす家族や介護スタッフが忘れてはいけない視点や配慮すべきこと、また家庭での環境づくりについて、理学療法士として高齢者を支える、株式会社くますま代表取締役の河添竜志郎さんにお話を伺いました。

  • 理学療法士/株式会社くますま代表取締役/日本支援工学理学療法学会副理事長
    河添竜志郎(かわぞえ・りゅうしろう)さん
    高齢者一人ひとりの困り事をサポートする、理学療法士。訪問看護ステーションやデイサービス、福祉用具のレンタル・販売や住宅改修の際のアドバイスなど、さまざまな支援を行う。受動的に介護を受けるだけでなく、一人ひとりの「できること」「やりたいこと」を探すサポートをする高齢者支援のプロフェッショナル。

高齢者の自立とは「なんでも自分でできる」ことではなく、その人の「希望を叶える」こと

高齢者の自立とは「なんでも自分でできる」ことではなく、その人の「希望を叶える」こと

河添竜志郎さん(以下、河添)

 河添さんは理学療法士として、施設及び住宅でのリハビリテーションや住まいづくりを通じて、高齢者を支えていらっしゃいます。リハビリテーションとは本来、どのような意味や意図を持つのでしょうか?

河添:

リハビリテーションと聞くと身体が不自由な方の機能訓練をイメージされる方が多いと思います。しかし、リハビリテーションとは本来、「権利の回復」を意味する言葉で、これは高齢者を支えるための基本的なスタンスともいえます。つまり、「自分らしく生き、自分らしい暮らしを続けていく権利」を取り戻し、その権利を持ち続けるためのお手伝いをすることが、リハビリテーションだと考えています。

 病気やけがで入院していた高齢者が自宅に帰る。骨折などを機に、今まで自宅でひとりでもできていたことが難しくなる。いずれも、以前と同様の生活は送れなくなるでしょう。その際に家族や介護スタッフは、どのような点に注意したらいいでしょうか?

河添:

もっとも大切なのは、助けを必要とされているご本人の希望や意思を丁寧にうかがうことです。その方がこの先どうありたいのか、何をしたくて、何はしたくないのか。私たちはそうしたご本人の希望を「自立」と呼んでいます。高齢者福祉においての自立とは、「自分でなんでもできる」状態を指すのではなく、「その人の希望を叶える」ことです。

 周りが先走ってあれこれやる前に、まず本人の意思を確認するということですね。

河添:

その通りです。たとえばトイレの失敗が続いている方に「今日から紙おむつを使ってね」と手渡すことは簡単です。特に介護スタッフは毎日おむつをしている方を見ていますから、それを特別なことだとは思いません。しかし必要だからといって、すんなりとおむつを受け入れられる方ばかりではありません。「必要だから」「このほうが便利」と周りが押しつけることのないよう気をつけてほしいと思っています。
あわせて、ご本人の自立をうながす意味でも、住まいを改修したり福祉用具を取り入れたりして、できないことをできるようにする「環境整備」も必要です。

トイレは、自分自身で「いつでもできる」環境整備を目指す

トイレは、自分自身で「いつでもできる」環境整備を目指す

 環境整備ですね。自宅での水まわり、特にトイレとお風呂は、どのように環境を整えたらいいのでしょうか?

河添:

まずトイレについて。排便・排尿というのは、時と場所を選びません。そのため「自分でできる」「いつでもできる」環境づくりをすることが大切です。トイレの失敗は羞恥心を伴うものですし、失敗を繰り返すことで、自己肯定感が損なわれます。
「トイレに行く」という行動は、移動する、腰をおろす、トイレットペーパーを必要な量を出して切るなど、実にさまざまな動作が合わさったものです。ですから、その方が移動に苦労しているのか、衣服や下着をおろすのが間に合わないのか、便座からの立ち上がりに困難を抱えているのか、課題を見極めなければ、適切な環境はつくれません。

トイレを利用するとき、尿意や便意を感じてから移動して排泄し、元の場所に戻ってくるまでにはさまざまな動作があります。トイレに失敗する場合、どこでどのような失敗が続いているかを確認することが大切(資料提供/くますま)

 立ち上がりに困難を抱えているときは、どのような解決方法がありますか?

河添:

高齢になると身体機能や感覚機能が衰えるので、便座に座るとお尻が下に沈むような姿勢になり、股関節の位置が膝より下になることがあります。この姿勢から立ち上がるにはかなりの力がいるため、立ち上がる際にふらついたり、転倒しやすくなります。こういった場合に手軽に使えるのが、座面を高くする「補高便座」です。

 補高便座には、やわらかいタイプもありますね。

河添:

やわらかいタイプは既存の便座に載せるだけ。クッション性があり、中央の穴が小さめなのもいいですね。特に痩せてきた高齢の女性は排泄のときに便座の穴にお尻が落ちたり、お尻の骨があたって痛みを感じる場合もあります。そういった方には特におすすめしたいですね。水洗いができて、清潔に保てますし。

「補高便座を使うと座る位置が30~50mmほど高くなります。この高さが加わるだけで、ぐんと立ち上がりやすくなります。便座や便器を買い替えることなく今ある便器に取り付けられます」(河添さん)

「『やわらか補高便座』は便座の上にのせるだけなので、他のご家族が座面の高さに違和感があるときは簡単に外せます」(河添さん)

 便座が昇降する商品もありますね。こちらはどのような方におすすめですか?

河添:

筋力が低下した高齢者の場合、手すりだけでは身体を支え切れない場合があります。「トイレリフト」はリモコンで便座が昇降しますので、立ち上がりの補助になります。補高便座だけでは立ち座りが難しくなった方はこちらがいいですね。リモコンスイッチなので、介助者が操作することもできます。

身体状況にあわせて垂直に昇降させるか、斜め前にせり出すように昇降させるか現場で切り替えられるのが特徴。(切り替え作業は設置業者への依頼が必要)昇降はスイッチ操作時のみ作動し、希望の位置で停止します

 トイレへの移動に困難を抱えている方には、どのような選択肢がありますか?

河添:

ベッドのそばに置けるポータブルトイレをおすすめすることが多いのですが、汚物をためるバケツの掃除が必要なので、「家族や介助者に申し訳ない」と利用を控える方が少なくありません。しかし水洗タイプの可動式トイレ、たとえばTOTOの「ベッドサイド水洗トイレ」なら使用後に自分で汚物をさっと流すことができます。

トイレの失敗や失禁が続くと、「長生きしたくない」などネガティブな感情を抱きがちです。ご本人の意思を尊重しながら適切な福祉用具を導入することは、高齢者の自尊心を損なわないためにも大切だと思います。

ベッドサイド水洗トイレは移動に便利なキャスター付き、ベッドから移乗しやすい場所に置けます。汚物を粉砕して圧送することで、細い排水管を実現。これまで困難とされていたベッドサイドへ後付けできる水洗トイレです

入りたいときにお風呂に入れる環境を整え、維持しておく

入りたいときにお風呂に入れる環境を整え、維持しておく

 次にお風呂についてお聞きします。高齢者の入浴環境を整える際には、どのようなことに留意されていますか?

河添:

お風呂はトイレと違い、今すぐにという切迫した事態にはなりません。介護保険での訪問入浴も可能ですし、「週3回デイサービスで済ませるので、自宅の浴室での入浴は必要ないのでは?」のようにおっしゃるご家族も少なくありません。
しかし便をもらしたとき、汗をかいたとき、寒くて体が冷えているときなど、すぐにお風呂に入りたい、というイレギュラーな状況は少なからずあります。高齢者が浴室を使うことをまったく想定していないと、そのようなときに慌てることになります。入りたいときにお風呂に入れる環境を整えておくことは大切です。

 そのためには、どのような工夫が考えられるでしょうか?

河添:

高齢者は浴槽の縁をまたぐ際にバランスを崩して転倒することが多いので、腰かけて浴槽に入れるベンチがついているのはとてもいいと思います。たとえば、TOTOの「サザナ」ですと、ベンチつきのタイプや、手すりなどで体を支えやすい浴槽を選んだりもできます。このショールームの展示のように(下記、写真参照)システムバスの入口からベンチまでが縦長のレイアウトは、入浴介助する方のスペースも広く取れますね。

システムバス「サザナ」の座りやすくデザインされたベンチカウンターは、浴槽と高さがそろい、座ったままでスライド移動ができます。「入浴時は思わぬ事故が起きやすいので、スムーズに動ける配慮は大切です」(河添さん)

 すでに浴槽への出入りや立ち座りが難しくなっている高齢者はいかがでしょうか?

河添:

浴槽のリムに載せて、シートの部分をゆっくりとリモコンで昇降させる「バスリフト」という商品があります。シートの部分を降ろすと、座っている人が湯船につかることができる仕組みです。これを使用すると、浴槽をまたぐのが不安な方や、浴槽内での立ち座りが難しい方でも入浴が可能になると思います。

通常、入浴では介助する側も浴槽に入らなくてはならず大変な労力が必要ですが、バスリフトがあれば高齢者を抱えずにトラブルの心配もなく入浴させられて、負担が大幅に減りますね。

介助者が高齢者を抱えて入浴させるときの荷重は、約20㎏のポリタンクを15秒持ち上げているのに相当するという試算も(資料提供/TOTO)

介助者がリモコンで操作するバスリフト。浴槽のリムに載せてストッパーで固定するだけの簡単設置、充電式電池のため大がかりな電気工事も不要です

できるだけ、「頑張らなくてもできる」環境づくりを心掛けて

できるだけ、「頑張らなくてもできる」環境づくりを心掛けて

 福祉用具を上手に取り入れ環境を整備すると、介助する側の負担を大幅に減らせることが分かりました。これは介助を必要とする高齢者にとっても重要ですね。

河添:

その通りです。よく病院などで「頑張れば1人でもできます」「介助者がいれば可能です」と言われることが多いのですが、これはつまり「頑張らないとできない」「介助者がいないときにはできない」というのと同じです。大切なのはご本人が「できるだけ頑張らなくてもできる」環境づくりをすること。そのために、適切なサービスや福祉用具を上手に取り入れて日常生活動作をサポートしてほしいと思っています。

 高齢者を見守る家族が日頃から心がけておくべき注意点はありますか?

河添:

高齢者は衰えてくると、まず立ったり座ったりといった上下運動に問題を生じ、次第に何もないところでつまずくなど、水平運動でも困難を抱えるようになります。中でも、少しずつ体力や筋力が低下する廃用症候群モデル(※)の場合、骨折などを機に歩くことを控える、体に痛みがあるため外出を億劫がるなど、健康状態の変化のきっかけは些細で同居しているご家族でも気づきにくいものです。「あれ?何かおかしい」という小さな違和感を大切にして、気づいたことがあれば些細なことでも遠慮せず、ケアマネージャーやかかりつけ医に相談しましょう。

高齢者自身の「やりたい」「できるようになりたい」という意欲が高まれば、できないことでも少しずつチャレンジしてみようという「自立性」が高まります。自立性が高まれば、今度は社会参加の機会が増える、といういい循環が生まれますので、日頃からの見守りとともに、本人の意思を尊重した環境づくりを心掛けていただきたいと思います。

(※)生活の不活発さによって生じる心身機能の低下や変形性骨関節症などのように徐々に生活機能が低下する
厚生労働省WEBサイト https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/dl/h1222-3d2.pdf

<Information>
第50回 国際福祉機器展 H.C.R.2023に出展決定!

TOTOは2023年9月27日(水)~29日(金)の3日間、東京ビッグサイト東展示ホール(江東区)で開催される国際福祉機器展 H.C.R.2023に出展いたします。展示コンセプトに「つくるって、人を思うこと。」を掲げ、TOTOの福祉機器などを一堂にご紹介いたします。皆様のご来場を心よりお待ちしております。

2023.11.30 追加掲載 <H.C.R.2023 出展社プレゼンテーション アーカイブ配信>

第50回 国際福祉機器展のリアル展会期中の2023年9月28日に行った出展社プレゼンテーションをアーカイブ配信しております。 見逃した方、もう一度聞きたい方、ぜひご覧ください。

『水まわり空間での自立を支援する環境整備』
~人の動きから環境を考えて整備すれば安全・安心にできることが増える~

編集後記高齢者が施設ではなく、自宅を中心に暮らすケースは今後ますます増えていくと思われます。そのような場合、自立して日々を送れることは高齢者ご自身にも家族にも大切。介護の現場で奮闘する河添さんのお話からは、高齢者の自立と介助する家族の暮らしをバランスよく実現していくための「環境整備」の大切さが伝わってきます。困り事が生じたら、遠慮なく理学療法士をはじめケアマネージャー、担当の医療関係者などに、適切な福祉用具の相談を。一緒に解決の糸口を見出していきましょう。編集者 介川 亜紀

写真/鈴木愛子(特記以外)、取材・文/藍原育子、構成/介川亜紀  2023年9月15日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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