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UD style TOTOのユニバーサルデザイン

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ホッとワクワク+(プラス)

vol.11Vol.11
インタビュー企画 住宅におけるこれからのユニバーサルデザインとは その1インタビュー企画住宅におけるこれからのユニバーサルデザインとはその1

インタビュー写真

日経デザインの下川一哉編集長が、気鋭の建築家・谷尻誠さんにインタビュー。住宅分野にとどまらない活躍を見せる、谷尻さんの作品のお話を絡めながら、「いまどきの施主が求めるユニバーサルデザインとは?」「これからの住まいに必要となるユニバーサルデザインとは?」など幅広く語っていただきました。

「気がついたらユニバーサルデザインだった」というくらいさりげない設計がいい

「気がついたらユニバーサルデザインだった」というくらいさりげない設計がいい

下川:
谷尻さんは本拠地である広島だけでなく、東京、大阪なども含め全国各地で住宅設計に携わっていらっしゃいますね。最近の住まい手と接してみて、どんなことを感じていますか?
谷尻:
施主ごとに要望は実に多様ですね。必要な部分はもちろんプランに盛り込むのですが、あまり建築家のほうでつくり込まないほうがいいのではないか、と最近思うようになりました。「便利にしすぎない」と言いますか…。
下川:
一般には、便利な住宅のほうがいいような気もしますが。
谷尻
例えば、自動車を例にとってみましょう。よく故障する古いヨーロッパの車を大事に乗っている人がいますよね。彼らは「いやあ、よく故障して困ってしまうよ」と言いながらも、乗りこなしていることを誇りにしています。そこには、その車に対する愛着と意志があります。便利なだけの新しい車よりも、愛着を持てるもののほうが求められているという気がするんです。
下川:
実際にそのような施主もいらっしゃいましたか?
谷尻:
はい、2012年6月に竣工した「八木の家」は印象深いです。鉄筋コンクリート造3階建ての住宅なのですが、サッシはついていないし、床も張っておらず土がむきだしのままなんです。
建築家 谷尻氏写真

建築家 谷尻誠氏
1974年広島県生まれ。専門学校卒業後、設計事務所勤務を経て、2000年 Suppose design office設立。建築、インテリア、ランドスケープ、展示会場などに関する企画・設計・監理のほか、プロダクト・家具等のデザインなど幅広い分野で活躍中。
HP:SUPPOSE DESIGN OFFICE

下川:
その状態で引き渡したのですか?
谷尻:
見る人はみんな驚きますね(笑)。生活していくうちに必要になればサッシを加えればいいし、土のままの1階部分に小屋を建てることもできます。
下川:
ずいぶん思い切った家ですね。施主はどんな方ですか?
谷尻:
30代前半で、もともと身の回りの家具は自作なさっていました。そういう手づくりがお好きな施主なら、建築家が全て完成させる必要はないかな、と。今、とても楽しそうにお住まいですよ。

八木の家外観 「八木の家」の外観。工事中のように見える

下川:
なるほど。施主の価値観もずいぶん変わってきましたね。「消費者」という言葉がありますが、これは企業が私たちを「モノを消費する存在」として認識してきたことだと思うんです。でも、21世紀を迎えたあたりから、徐々に消費者としての立場だけに飽きたらず、何かを生み出したい、表現したいという思いが高まってきているのではないかと感じています。
谷尻:
そういう施主は確実に増えていますね。実を言えば、私自身もそうです。東京での仕事が増えたのでこちらにも部屋を借りたのですが、家具を入れる際に、どのインテリアショップを回ってもなんだかしっくりこない。個々には「いいな」と思えるデザインの家具でも自分の部屋に置くことを考えると、なんだか買う気がしないのです。最終的には、自ら図面を引いて、ホームセンターで材料を買ってきて、自分でつくってしまいました。そうしたらとても納得できたんです。
下川:
モノや空間をつくるプロセスに参加できると、「消費者」ではなく、つくり手の一員として、生み出す喜びを味わえるんですね。
ユニバーサルデザインにしても、完成形としての製品を使うだけでなく、生活の中で得られる体感をもとに、どういう設備や配慮が必要なのか、住まい手自身が考える時代なのかもしれません。
谷尻:
今、進行中のリノベーションの施主もご自身で考える感じで、次々に自分のイメージする空間をスケッチして私にお渡しになるんです。私も描いたことがないくらいの、かなりの枚数です。どっちが設計者かわからないくらい(笑)。そんな状況もまた、心地いいのですが。

1階 1階部分。土がむき出しで、木が植えられている

2階部分 2階部分。室内側にサッシを設けている

下川:
それはどういったリノベーションなんですか?
谷尻:
ご夫婦と長女、お祖母さまがお住まいの、古い和風の住宅です。1階に客間とLDK、2階に子ども室と寝室という間取りで、長男が独立され空いた子ども部屋をお祖母さまが使っています。その部屋が2階なので、お祖母さまは階段に設置したリフトで階上に上がっています。ほかに個室はありませんでした。
下川:
それは大変な負担ですね。
谷尻:
そこで、リノベーションでは屋根を新しくかけ直して、その軒の出の下にリビングを増築することにしました。1階の空いたスペースにお祖母さまの部屋を、2階に長女の部屋を設けて、バランスをとりながら空間を再構成していきました。

スケッチの様子現在進行中の戸建てのリノベーションについて、谷尻さんが説明中

下川:
設計面で、特に気をつけたことは?
谷尻:
いかにもユニバーサルデザイン、といった形状が前面に出すぎないようにしました。たとえば手すりが手すりっぽく存在する必要はない。家具の一部としてデザインしてもいい。
下川:
本当に必要なものって、そこで生活する個人のごく私的な経験から導かれるものだったりしますからね。ひょっとしたら家具の配置を工夫するだけで生活しやすくなってしまうこともあるかもしれません。
谷尻:
階段ひとつ取り上げても、さりげなく腰掛けて休みたくなるデザインであれば誰でもらくに上り下りできるようになるはず。用途を固定してしまうような設計ではなく、「こんな風にも使える」という汎用性の高いデザインを心がければ、住む人ごとに快適に過ごしてもらえるのではないかと思っています。「気がついたらユニバーサルデザインになっていた」くらいのさりげない感じだといいですね。

(vol.12に続きます)

日経デザイン 下川氏写真

日経デザイン編集長
下川一哉氏
1988年日経BP社入社。1994年に日経デザイン編集部に配属、2008年より編集長。
HP:NIKKEI DESIGN


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写真/山田愼二 文/渡辺圭彦 構成/介川亜紀 監修/日経デザイン 2013年4月18日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。

次回予告
vol.12は引き続き、建築家の谷尻誠氏と日経デザイン編集長の下川一哉氏による対談をお届けします。
2013年5月下旬公開予定。