特集4/独学の建築家

ふたつの案を並行させる

 しかし、住宅設計における本質的な軸をもっていたとしても、必ずしも一直線に最終形に至ることができるわけではない。手嶋さんも試行錯誤をしている。設計中、ふたつの案を並行して考えていたというのである。
 最終的に採用される案は、三間角の九間をふたつ並べて、両者ともに南西側のテラスと向かい合う構成だが、これに対してもうひとつの案は、一見するとまったく異なるもの。ふたつの九間の矩形を45度振って、一部をかみ合わせる構成である。この案では、限られた敷地が広く開放的に感じられるように、敷地の四隅を庭として、矩形の室の二面、または三面が庭に接することができるようにしている。まるでルイス・カーンによる平面上の幾何学的な操作のような、説得力のある合理的な案である。手嶋さんは、「浦和の家」(08)でも九間の矩形を雁行させるなど、ときに幾何学的、あるいは合理的な強い構成を展開させる。強い構成が無理なく調和する状況もあり、2案の並行は、手嶋さんがよく採用する手法なのだそうだ。
 ただし、今回の「心安く住めることが第一」とする住宅では、45度振る案はやや形式性が強いようにも思える。もちろん手嶋さんは形式性の強さをよくわかったうえで計画しているのであるが、なぜこうしたまったく異なる2案を並行させるのか。それは、強い構成を展開させて突き詰めて考えると、仮にそこに無理が生じ採用できなかったとしても、よりよい案を生み出すきっかけになる、と手嶋さんは言う。異なる概念の共存は、お互いにとって刺激になり、新しいものを生み出す、ということだろう。それでは、合理的な強い構成の対案として採用された「笹目町の家」の最終形は、どのような特徴をもっているだろうか。


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