特集4/独学の建築家

設計は一任された

 建主は、ご夫妻と子ども3人の5人家族。「子どもを土のあるところで育てたい」と、庭のある一軒家を建てることを決めた。ご主人の職場が近いこともあり、敷地は北に山々を望むことができる鎌倉である。周辺一帯は住宅地であり、特別に歴史的な街並みが広がっているわけではないが、近隣の古社寺や目に映る地形が、古都の風情をにおわせている。ときには家の前を人力車が通ることもあるような場所だ。この土地に、クラフト好きの奥さまがいつかお店を営めるような、社会に対して少しオープンな家をつくる、というのが「笹目町の家」の与件であった。
 設計者を選ぶにあたっては、雑誌やインターネットを閲覧し、手嶋さんの「上落合の家」(2012)が目に留まり、室内への光の取り入れ方が気に入ったので、設計を依頼することに決めたという。過去の住宅によって、建築家としての信頼を得たのであろう、設計が始まると手嶋さんはほとんど一任されて思考を進めた。研究者であるご主人のために書斎がいる、鎌倉の古都となじむように経年変化する表情をつくる、などは手嶋さんが自ら解釈して必要だと判断したのである。建主からは特別な要望はなかったとのことだが、もちろん勝手気ままに設計をしていたわけではなく、手嶋さんは、建主と「本質的なところで理解しあっていた」と言う。「心安く住める」ことを目指すうえでの建築空間に対する方向性にも、ズレがなかったのだろう。ここでも手嶋さんは、語ることよりも、本質をとらえ共有することを第一としている。


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