特集4/独学の建築家

家のファンクションを重視

 最終形の特徴は、まずは経年変化を見越して枕木でつくられた塀。日本建築の高垣や間垣のような、内を守り、外にも豊かな風情を与える塀とすることで、古都になじむ構えとしての機能が生み出されている。同時に、10㎜ほど透かして積層させることで、通気を確保した仕様でもある。
 そして、片流れの屋根。45度振った別案だと複雑な屋根構成になるが、最終形ならば、簡素な片流れをかけることができる。片流れは、通風や採光にとって無理のない自然な形。片流れの屋根にした結果、南西の塀の表情もあいまって、控えめながらも、しっかりと土地となじんだ姿になっている。いつか建主の奥さまがお店を営んだときにも、このたたずまいはきっと後押しになるにちがいない。
 これらは、どちらも合理的な強い構成というよりは、無理をせず、素直にこの土地に立つ家の機能と向き合った結果として、表れたものであろう。
 また最終形は平面においても、身体的な機能を重視した計画がなされている。玄関は内外の緩衝や出入り口としての機能に徹底し、庭は大振りに構えすぎていない。台所脇のサービスヤードの融通性や、意識的に主屋から離したご主人がひとりで過ごす1坪の書斎なども、まさに機能的。住み手の身体的な機能が第一なのであって、必要以上のことはしないつくり方がなされているのだ。
 つまり全体的にこの住宅では、客観的な調和や合理的な強い構成よりも、住み手にとっての気持ちよさや、心安らかに暮らすことができる、本来の「住宅の機能」が素直に実現している。手嶋さんは、「形ではなく、ファンクションで考えている」と言う。


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