特集/ケーススタディ3

いい住まいとは何か つねに検証していく

―― 環境配慮へのおもな取り組みには、どんなものがありますか。
平生 外断熱工法や木製サッシ、太陽熱利用給湯システムなどいろいろありますが、一番画期的なのは床下チャンバー型の空調システムかな。床暖房のように床を直接あたためるのではなく、天井裏の室内機であたためたり冷やしたりした空気を床下空間に吹き込み、床から室内に放出するので、環境負荷を抑えつつ家じゅう快適な環境が保ちやすいんです。分譲マンションでは初採用で、将来は標準装備にしていきたいと思っています。
―― 今後この種のプロジェクトは続いていくでしょうか。
平生 僕が決定する立場にないのでなんとも言えませんが、最終的には消費者が決めることだと思います。政治をよくするには政治家をよくすることも必要ですが、じつは有権者の問題だというのと同じで、こういうマンションじゃないと買いたくないという声が上がれば、やはり建築家と一緒につくったマンションにしようとなりますから。それと、もうひとつ言えるのは、建築家を生かすなら、マンションづくりの文法を逸脱しない限り、建築家のよさは出ないということですね。
―― マンションづくりの文法とは?
平生 第1の鉄則は、南向きバルコニーに面して掃き出しサッシが並んでいること。これをやっている限り、建築家の出番はほとんどない。これは僕のニュータウン時代の原点ですが、一戸建ては周囲になるべく壁がなく柱のあいだにサッシがはまっているような家のほうが売れるんですよ。入った瞬間に奥さんが、「わー、明るいわー」と言うから(笑)。明るいわーの裏側には、寒いぞ、雨が吹き込むぞ、窓の掃除が大変だぞ、ソファがうまく置ける場所やポスターを張る壁がないぞ、など、問題がいっぱいあると僕は思うんだけど……。ここでは南にアパートがあるから部屋ごとに窓の配置や大きさを変え、腰かけたりモノを飾ったりと窓辺の暮らしを楽しめるよう、腰高窓にしました。1回文法を忘れてみよう、それには消費者のバックアップも必要だし、若干のこわさもあるし、若干の出世の妨げにもなるかもしれないが(笑)、賭けてみようよ、ということですね。
―― 消費者がどう受けとめるかはこれからですね。
飯田 建物ができてから販売するというのも初めての試みですからね。建築家を生かすということに関していえば、ディベロッパーは建築家をものすごく使いにくい人間だと思っているわけです。あの人たちに頼むと何されるかわからないとか、お金が高くなるとか。インテリアデザイナーは彼らの商品を増強してくれるから、わりあい起用されることが多いんですが、建築家はそうはいかない。相手の懐に入って仕事をするというか、新しい考え方をつくることに挑戦しない限り、まったく影響力はないんです。今回は平生さんのような方に巡り会ったおかげで、こんな新しいことにチャレンジできて、僕は非常におもしろかったけれど、これをおもしろがれるか否かは、建築家のありようを問うところがありますね。
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