特集/ケーススタディ

光の明暗がつなぐ時間

 ガラス戸を開けて中に入ると、ほの暗さを感じるコーヒー色の内装に囲まれる。横に連なる窓の外に広がる通りの景色は、日中はまぶしく感じるほどだ。「薄暗い室内と、窓から見える通りの明るい風景という明暗の差が強く印象に残った」という永山さん。永山さんは、昔の日本の民家で暗い室内から明るい庭を眺めるのに似た感覚を抱いている。この光のイメージを増幅させるために用いたひとつのツールが、天井面の黒いガラスと入り口正面にあるガラスの光壁である。店内奥に白い光の面があることで、室内と外の明暗のコントラストはいっそう強調され、来店者の気を引くポイントのある空間に一変。そして、この面が窓と同列に感じられることで、この面から外に抜けていくような感覚が生まれている。乳半シートを張った高透過ガラスのまわりにスチール板の薄い縁をまわした光壁には、調光機能付きのランプが仕込まれた。窓の外と同じ程度の明るさになるよう、時間や天候に応じて喫茶店のスタッフに随時調整してもらっているという。
 小ぶりで低い椅子の座面に腰を下ろすと気づくのは、白い光壁や窓から見える景色が、黒く光沢のある天井面に映り込んでいることである。さらに注視すると、半透明の黒い面を通して天井裏が見え、一部では2階の天井まで見えてくる。これは、既存の天井面をはがしたうえで黒いガラスを挿入しているため。外の光が強く明るいと窓からの景色は黒ガラスの天井面にカラフルに映り、光が弱いとモノクロ気味に映り込む。そして、2階の半畳分の床が抜かれアクリルの厚板に替えられていることで、2階の天井まで透けて見える。黒ガラスは、窓の外と室内の映像を面に映しながらも適度に透けるように、スモークグレーのフィルムを張って調整された。
 客席テーブルの黒い天板は、もとのテーブル脚を残しながら新たに付けられたもの。永山さんは上に向かって斜めにテーパーをつけることで、シャープに見えながらもしっかりと厚みを感じる造りとした。テーブル上面は大きな面積で光を反射するため、窓や光壁の光を表層で強めている。古い空間に取り入れた光壁と黒ガラスの天井面、鈍く光る黒いテーブル面のあいだで、まるで音が響きあうように互いに光をやりとりしているかのようだ。


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