特集6/ケーススタディ

隅を消した隙間

 いわゆるワンルームの賃貸住宅では、玄関側が細かく区切られた水まわりで占められ、残ったメインの居室は全体面積の半分ほどになっていることが多い。これに対して小川広次さんは「入居者には、自分の専有面積を100%感じさせたかった」と語る。本当のワンルーム空間を残したのである。
 空間全体を感じさせるためのひとつの仕掛けが、コンクリート壁の入隅部分4カ所すべてに設けられた、床から天井までの縦長の窓である。居室側の東面に設けられたふたつの窓からは午前中の光が筋のように入り、共用通路側の西面のふたつの窓(ひとつはガラスの玄関扉)からは午後の光が乳白ガラスを通し拡散して入ってくる。十分な光が壁をなめるように伝わってくることで、細長い空間全体が見えやすくなる。また「床から天井までの縦長窓とすると、窓は壁にあく孔ではなく、隙間として見えてくる」と小川さんは説明する。確かに、コンクリートの空間に囲われる閉塞感は薄れ、視線は左右の窓を通して上下にスッと抜けていく。さらに天井と壁との取り合いでは天井側に目地をとり、窓の上端にくぼみがあるため、その先があるかのような上昇感がある。
 こうした繊細な納まりは、視線がどのように心理に影響するかを意識してつくられたものであった。なお、前面道路からも居住スペースの床レベルは約60cm下がっているので、道行く人と目線が合うことはない。

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