特集3/ケーススタディ

執着が形を生む

 2006年完成の「那須の週末住宅」を見に行った。
 まず、目についたのはモダン和風としての――そう、「異形の屋根」だ。勝手ながら異形と言わせてもらう。ここに野沢さんの意志を読む。
 南面する屋根上部は急角度の台形屋根。その下にゆるやかな角度に長い庇が延びる。上部は屋根材としてガラスが張られ、その下にはガルバリウムが見える。押縁にアルミ。ガラスを通した太陽の光は、ガラスの下の空気をあたためガルバリウム鋼板をあたためる。あたためられたガルバリウム鋼板は、さらにその裏(下)の通気層をあたため、空気は屋根裏の頂きに上昇し、24時間運転のモーターファンによりダクトで床下に送られる。あたたかい空気は床下のコンクリート基礎をあたためつつ、床の各所の吹出し口から室内へ立ち上り、建物全体をあたためる。とはいえ、ここまでなら一般的な空気集熱型パッシブソーラーの扱いと変わりはない。
 野沢さんがこだわったのは屋根の角度。ここで12寸勾配という尋常ではない急角度の屋根の形態が現れた。冬を主体とした集熱を意図して、必要な最適の角度をとった。だから異形の屋根が生まれた。和風の家に期待される一般的なプロポーションの屋根をあえて避けて野沢さんは、冬の太陽光を熱に変換するために最適な機能を選択した。
 野沢さんがこだわったもうひとつは、庇の形態。あえて角度を途中からゆるやかな角度(2.7寸勾配)に変えて長く延長した。このデザインのポイントは、12寸の屋根勾配では、万一のトラブルに対応するとき、屋根に上がる職人さんの安全確保に無理があると考えたからだ。修理工事に際して足場が必要になりコストも上がる。危険でもある。それなら下部の屋根の角度を変え、職人さんが立てる角度にすればいいという結論。だからここでも屋根角度はプロポーションを中心に思考されたものではない。
 街を歩くと空気集熱型パッシブソーラーを使った屋根をしばしば見ることができる。しかし、設備そのものがデザインを拘束しているのではないかと思われる例を見ることがある。逆に、プロポーションにこだわるあまり効率を落としたり、屋根瓦の上に異物が乗ったりするような。
 野沢さんは必要条件を意識化することで「那須の週末住宅」に不思議な形をつくり出した。徹底的に要件を追求して、そのうえであらためてデザインの整合性を求めている。これはある種の確信犯に近いといっていいだろう。建物の裏にまわる。デザインはさらに意外なものになる。東西南北のシルエット、屋根勾配はすべて違うのだ。必要のない形は選ばれていない。
 北面は雨戸を閉じると庇はない。雨戸を開けると、広いテラスが現れる。内部であり外部となるテラス。室内へ入ると意図がわかる。南側テラスから北側テラスへ、面一の床面は一挙に空間を拡大していく。そして北側のテラスはまさに内外のテラスに変換されていく。

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