ケーススタディ3

壁柱の新境地

 壁柱による最新作が「八幡アパートメンツ」である。現場打ちコンクリート造3階建て。1階は駐車場と賃貸の1住戸、2階が賃貸の2住戸、3階が施主の住戸という構成。
 この敷地を含む一帯の区画は支離滅裂で規則性は見あたらない。接する道路の道幅は狭く、朝夕には大量の自転車が突進する。低層の建物がそれぞれ勝手な向きに立ち、駐車場や駐輪場が虫食いのようにある。およそなんの手がかりもなく、かといって自らが規範になりうるような位置でも大きさでもない。難しい設定である。
 敷地は極端な変形で、そもそも接道長さが足りず長屋しか建たない前提で計画を進めていたところ、隣地との土地交換で共同住宅が可能になり、設計が変更されたのだという。試行錯誤の結果、現行のL字型の配置に落ち着いたが、もちろん平面は不整形で、これまでのように壁柱を整然と配置することは難しい状況。
 しかし、それでもなお壁柱は適用された。周囲との関係、見合い、見通しを最優先に壁の長さと位置が決められ、さらにハイサッシの開口部に透明ガラスに加えガラスブロックとタイルを使用して、プライバシーの向上が図られている。これまでのように閉じると開くの両端の2項に中間項が加えられたのである。
 壁柱そのものも、これまでのように直交する壁だけを用いるのではなく斜行する壁も用い、さらにほかの壁と接することを頑なに拒否するのではなく、場所に応じて接することを厭っていない。途切れることがない3層分の壁柱の自立性は保たれているが、壁の長さや位置は変幻自在で、整合性を離れ、高い融通性を発揮している。
 現実というカオス。それは雑然、無秩序、混沌としていて取り止めがない。そこに壁柱を投入することで、壁柱自身が変容し、それに伴って現実が整理されていき、カオスの一部の透明度が少し増す。その例証として「八幡アパートメンツ」をみなすことが可能だろうし、構法としての壁柱の適用範囲がさらに拡張したともいえるだろう。
 しかし一方では、この集合住宅が壁柱を用いながら進んでカオティックな状況を自身の内に導き入れ、朗らかなカオスとでも呼べるような様相をつくり出し、それによって外部の圧倒的なカオス(現実)に静かに、そしてしぶとく拮抗しようとしているとも読める。
 いずれにしろ、いくつもの読み取り方を誘う建築であるにちがいない。


>> 柳澤潤さんによる、そのほかの壁柱の実例を見る
>> 「八幡アパートメンツ」の図面を見る

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