藤森照信の「現代住宅併走」
コンクリートでできた巣 岡啓輔さん ホームページへ

 若い人の仕事を見て久しぶりにうれしかった。岡啓輔が奇妙な家を設計していることを知ったのは、2003年の、SDレヴュー審査のときで、自分で打設したヘンな形のコンクリート独立柱の上に立つ肖像写真を見て、特別賞として「藤森賞」を出した。
 の「蟻鱒鳶(アリマストンビ)ル」が起工したと聞き、4年前、訪れ、そのときのあれこれは『藤森照信21世紀建築魂』(INAX出版)に書いた。まだ地下室と中2階の床の一部ができただけで、建築としても建築家としても暗黒星雲状態だったが、コンクリートについてはただならぬものを感じ、特別賞を出しておいてよかった。
 ふつう、コンクリート打設は1階分ずつ行うが、は、手の届く長さのおよそ70㎝ずつ繰り返す。打ち継ぎ面をブラシで洗い、スランプ値ゼロの硬練りコンクリートを使えば、やがて結晶レベルで一体化すると聞いたことがあるが、その理想を黙々と実践していた。配筋、型枠、練り、打設をほぼひとりで7年やり遂げ、全体の姿の半分まで終わったというから、三田の聖坂へ見に行ってきた。
 やっと形が生まれている。もちろんすべて打放し。たとえば、端部が波形を小刻みに繰り返すのは、例の塩ビの波板が型枠。天井面を見ると、表面の一部がわずかに膨らみ装飾的な形が浮き出ている。手伝いに来てくれた友人が型枠の表面を削って形を浮き出させたという。
 上階に上がる階段の「あげ裏」は小刻みに角の立った凸凹を繰り返すが、余ったツーバイ材を少しずつずらして重ねた型枠の結果。 壁や天井や、片持ち状の突き出しの造形がどんな型枠の成果かはほとんどわかったが、なんとも謎の形がある。天井と壁の一部が、連続してわずかに膨らんでいるばかりか、コンクリートとは思えないほど緻密に打ち上がり、手で触れると鏡のよう。鏡面仕上げのコンクリートなんて聞いたこともない。
 見せてくれた型枠はトンデモナイシロモノだった。木の残材で額縁をつくり、中に何本もの残材を、適当にあいだをあけて並べて組み込んだもの。そこにビニール製のシートを張って一丁上がり。わずかな膨らみも鏡面仕上げも、ビニールシート型枠の成果というか結果なのである。
 この人はなぜこんなことを思いつくのか。アレルギー体質だから合板を切ったり削ったりができず、昔ながらの杉板型枠にしているが、どうしても隙間からノロが滲み出るので、防ごうと余ったビニールシートを張ってみると鏡面状に仕上がった。おもしろいのでわざと板のあいだを大きくあけて試してみると、床スラブくらいの液状コンクリートの重さならビニールシート型枠でも十分と判明した、とのこと。


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