「山川山荘」は、入り口のほうから見る限り、切妻屋根で軒が深い、ごく普通の別荘に見える。別荘にしては閉鎖的で鈍重な趣すら覚える。ところが長手方向にまわり込んだとたん、様相は一変する。ひと言でいえば、スカスカなのだ。LDKという、日本で一般に定着した言い方では、1LDKとでも表現するのだろうが、初めてこのプランを見た施主の山川さんは、どんな反応だったのだろう。「厨房のある部屋」と「ベッドのある部屋」、「風呂」と「トイレ」、そしてふたつの「収納」が独立して、6つの箱としてデッキの上に配置されている。1LDKといわれて、こんなプランを想像する施主はまずいないだろう。それに、箱に取り付けられた正方形の窓が小さすぎではないか。喧騒を逃れてせっかく自然のなかに飛び込んできたのに、こんな閉鎖的なシェルターにしてどうするの、とステレオタイプ的な物言いをつけたくなってしまう。でも、実際にできてしまったところを見ると、血気盛んな建築家の大胆不敵な構想に、施主も共同正犯として加担したうえでの実現だったのだろう。
- *3/『新建築』1978年8月号、新建築社
- *5・6/『旅。建築の歩き方』彰国社、2006年
- *7・8・9/『卒業設計で考えたこと。そしていま』彰国社、2005年