特集/ケーススタディ10

テラスが居間

「冬は使わない。夏のための別荘である。なるべく広いテラスがほしいという施主の要望に応じて、テラスがアクティビティの中心になるような住宅を提案した」(*1)
 そうすると、外部だと思っていたテラスこそが、この住宅の居間という位置づけになるのだ。夏、日が落ちて夕食を食べるときと寝るとき、あるいは雨の日のために、囲われたシェルターがあればいいのだから、部屋の広さも抑え、窓も小さくてかまわないという論理になる。ちなみに「厨房のある部屋」の寸法は、図面から読むと、内々で4630㎜×4330㎜と推測できるので、12畳。切妻の形状がそのまま内部空間になっているが、高さは壁面で1740㎜、一番高いところでも約2500㎜である。そして、「ベッドのある部屋」は6畳ほど。
 テラスがガラスの入っていない居間だと頭のなかのスイッチを切り替えれば、夏の別荘生活で木々の緑と木漏れ日、さわやかな風が満喫できることは納得したが、この、テラスが居間、という感覚は、どこからきたのだろう。原広司に同行した集落調査で数々の原初的な住まいを見たことももちろん大きい。
「それと、その少し前に『シーランチ』(1966)が代表するようなカリフォルニアの住宅がかなりの勢いで日本に紹介されるようになってきました。……デッキをL字型に囲んでいるとか、そういうプランが多かったように記憶していますが、そういうものにも影響されていると思います」(*2)
「山川山荘」には、山本独特の住宅の原型が現れている。テラス、デッキ、プラットフォーム、基壇と、呼び方はいろいろだが、まず基壇を設定し、その上に個室や分棟の箱を離散的に配置する。それらをルーフ(屋根)で覆って、再度、全体の秩序を取り戻すというやり方だ。
「ここには外部と関わるための場所のない、つまりあらゆる部屋は内部の者だけの同質の場所だということができる。だからそれぞれの部屋の結合因(結合の原因、関係)を説明することは不可能なのだ。用在的機能だけがあればいい。それが結びついていようとバラバラに離れていようと、どこにあろうとどうだっていいことなのだ」(*3)
 どうだっていいことなのだ、と言いながら、このプランはよく考え抜かれている。長方形の基壇を3等分するとほぼ正方形の3つの区画ができる。北側の1区画を食堂にし、真ん中は居間と読み替えたテラス、南側の1区画はさらに分割して、寝室、風呂、トイレの機能を与えている。ここまではきれいなプランだなと思って図面を見ていたが、テラスからの眺めを考えると、「収納」のふたつの箱の位置がしっくりこない。設計者としては「収納」箱は置きたくなかったのかもしれない。施置きたくなかったのかもしれない。施主の要望に負け、置き場に困って、ええい、ままよと、基壇中央に対峙させたのだろう、と勝手に解釈した。
「ある平面構成がそのまま上にもち上がっていって立体化していくというつくり方をしたいと思っていたんです。ところが屋根までくると本当にどうしていいかわからなかったですね。ずっと悩んでいました。屋根みたいなものをつくりたくなかった。……デッキがあって、デッキの上に箱が載っていて、それにどういうふうに屋根を架けるかというときに、あれ以外思いつかなかった」(*4)

参考文献・出典
*1・2・4/『山本理顕/システムズ・ストラクチュアのディテール』ディテール別冊、彰国社、2001年6月刊
*3/『新建築』1978年8月号、新建築社
*5・6/『旅。建築の歩き方』彰国社、2006年
*7・8・9/『卒業設計で考えたこと。そしていま』彰国社、2005年


>> 「山川山荘」の平面図を見る

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