特集/ケーススタディ

再発見と新解釈の先に

 永山さんはカヤバ珈琲の後に、愛媛県宇和島市の木屋旅館の再生など、日本的な建物をリノベーションするプロジェクトにかかわっている。「すでにそこにある歴史ある空間には、さまざまな情報がたくさんあります。なるべく手をつけずに些細なきっかけを与えるだけで、空間の違った側面が見えてくるようにしたい」と語る。おもしろいと感じたことを発見して増幅させることで、全体の見え方をガラリと変えるというのが永山さんの目指すアプローチ。カヤバ珈琲では、光のコントラストという知覚現象の再発見と解釈を通して、空間がもつ本質的な特性を引き出すこととなった。
「街では時やストーリーが積み重なって混沌としてきたときに、複雑さが心地よさや落ち着きに変わることがあります。これまで自分が新規に設計するプロジェクトではミニマルに整理された世界観をつくってきましたが、決して心地よい空間かというと、そうではない場合もありました。最近では複雑なものがとても魅力的に感じられて、それらをどう扱っていくかを考えています」と永山さんは語る。
 光が重なり反復する店内で過ごすと、年月を経過した柱や梁の表情のなかで、人や車の行き交う通りの往来と店内の人の様子が、天井ガラスやテーブルに映り込んで重なって見えてくる。過去と現在、未来的な要素が渾然一体となり、時間や空間について普段感じている意識が広げられるようだ。このカヤバ珈琲の空間は、来訪者の意識を転換する装置になっているといえる。


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