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vol.45 インタビュー企画 ジャンルのバリアを超え、新たなユニバーサルデザインを

2016年10月15日〜12月11日にTOTOギャラリー・間(東京都港区)で開催された「トラフ展 インサイド・アウト」会場にて

vol.45 インタビュー企画ジャンルのバリアを超え、新たなユニバーサルデザインを

2016年10月15日〜12月11日にTOTOギャラリー・間(東京都港区)で開催された「トラフ展 インサイド・アウト」会場にて

お話を伺ったのは、若手建築家として注目を集めている、
トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんと禿真哉さんです。
住宅や別荘、美術館などさまざまな建築を手掛け、
プロダクトデザイン、インテリアデザインなど建築以外のジャンルにも挑戦。
いろいろなジャンルを経験しているからこそ、
多くの視点から使いやすさを考えてものづくりに取り組むことができるといいます。
今回は、これまでの数々の作品を通して、独自のユニバーサルデザインの考え方をお話しいただきました。

ジャンルのバリアを超えるのも、ユニバーサルデザイン

自由自在な作品づくりも、ユニバーサルデザイン

鈴野浩一さん(以下、鈴野)
禿真哉さん(以下、禿)

―――鈴野さんと禿さんは建築だけでなく、幅広いジャンルのデザインを手掛けていらっしゃいます。

鈴野:
ショップのインテリアデザインから家具やサッカーボール、指輪などもあります。最初はとまどいましたが、しばらくして、建築的な発想法を活かしてそれぞれのデザインに取り組むようになりました。たとえば、建築を敷地条件から考えるように、モノのあるべき場や周囲の環境をイメージしながらデザインを詰めていく、などですね。

―――そうした中で、おふたりはユニバーサルデザインをどのように考えていますか?

鈴野:
私たちが試みているように、建築的な発想をもとにしながらも、ジャンルを超えてプロダクトデザインや、グラフィックデザインにも応用する。そのように、ジャンルのバリアを超えることも、ユニバーサルデザインといえるのではないでしょうか。

―――ユニバーサルデザインを盛り込むとき、どんなことを大切にしていますか?

鈴野:
「人が入り込める余白を残す」ことで、使う人の自発的な行動を引き出すことです。最後に人や他のものが入り込んで、作品が完成するイメージですね。
禿:
「トラフ展 インサイド・アウト」のような展示でいえば、一方向的に自分たちの作品を紹介するのではなくて、来場者が覗き込んだり、手に取って使ったりして、デザインが完成されると思います。
鈴野浩一さん

建築家
鈴野浩一(すずの こういち)さん
1973年神奈川県生まれ。98年横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了。シーラカンス K&H、Kerstin Thompson Architects(豪メルボルン)勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所共同設立。共同主宰。
トラフ建築設計事務所

禿真哉さん

建築家
禿真哉(かむろ しんや)さん
1974年島根県生まれ。99年明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。青木淳建築計画事務所勤務を経て、2004年トラフ建築設計事務所共同設立。共同主宰。
トラフ建築設計事務所

―――なるほど。

禿:
また、障がいのある方が使う場所や施設は、ポジティブな発想でつくるべきだと思っています。これは、2年前に、「日本財団パラリンピックサポートセンター」を手掛けたときの経験からです。
そのセンターは、障がい者競技のサポートをする方々や選手が使うシェアオフィスのようなところです。そのとき要望されたのは、「いかにも“障がい者向け”のデザインではなくて、そのスポーツを本気でやっている他の人たちがかっこよく感じたり、パラリンピックは超人のアスリートたちが参加する大会なのだとイメージできるようなセンターにしてほしい」ということでした。

―――障がいへの配慮と、かっこいいデザインを融合させたい、と。

禿:
たとえば、複数の床材を組み合わせて、視覚に障がいのある方を誘導する仕掛けがつくれます。柔らかいところと固いところなど、足への感触を変えるんですよ。その床材を、インテリアのグラフィカルな要素にも活かしました。

ユニークな発想と使いやすさを両立

ユニークな発想と使いやすさを両立

―――「トラフ展 インサイド・アウト」の展示にも、ユニバーサルデザインを配慮した作品はありますか。

鈴野:
家具ですと、「DōZOベンチ」がそうです。これは、誰が座ってもいいんですよ。テーマは「小さな都市計画」です。
禿:
ユニバーサルデザインの考え方は、どんな人にも門戸を広げていく、誰とでも目線を揃えていくと解釈できますね。自分の家の軒先にベンチを出すことで、家の外と中を隔てている壁を緩くすると、それができるようになる。個人の領域のようなものを和らげることで、まちを一体的に感じられるかもしれません。そのきっかけになるのがこのベンチです。
DōZOベンチ

「DōZOベンチ」は門の前などに置くイメージ。ここに人が自由に座り、室内にいる人や近所の人たちと会話がはずんで“まち”へとつながる(写真:小川真輝) 

人が座った様子

人が座った様子。お年寄りはもちろん子どもも座れる高さ。座面の端は座りやすいように斜めにカットしてある。座面の穴は杖を刺すほか花などを飾ることも(写真:尾鷲陽介)

港北の家 外観

「港北の住宅」の模型。筒形の屋根が組み合わされたユニークな外観

室内

実際の室内の様子。屋根や壁の形状を活かして、室内を緩やかに仕切っている(写真:阿野太一)

―――住宅はどうでしょう? 「港北の住宅」はとてもユニークな形状ですが、70代のご夫婦が依頼されたとか。

鈴野:
「終の棲家として、今住んでいる家をリノベーションしたい」というのが最初の要望でした。住まいがある場所は住宅密集地で、日差しや風が入りにくく、プライバシーも課題でした。そういった課題と、コストとのバランスなどをにらんで、私たちは結局新築のプランを提案したんです。そうしたら、気に入っていただけた。
筒型の屋根が組み合わされたアバンギャルドな形状ですが、実は平屋。室内は段差のない大きなワンルームなので、高齢の方でも移動しやすいと思います。
禿:
ユニークな形をした屋根の稜線が、そのまま室内にも反映されて空間を柔らかく仕切っています。ワンルームを、視覚的に室内の機能を分けているんです。平面は7m角のコンパクトな方形です。数m水平に移動するだけで、キッチンやダイニング、水まわりに移動できます。洗面所とトイレ、お風呂の入口は引き戸ですが、取り外せば車いすでの利用もできます。
鈴野:
将来は、住まい手がベッドの周りで生活する時間が長くなる可能性もあると思います。そういったときでも、自然の光の動きや雲の動きなどが感じられるように、トップライトの位置を工夫しました。

―――六本木にある「スヌーピーミュージアム」(©Peanuts Worldwide LLC)も手掛けたそうですね。子どもからお年寄りまで、幅広いファンが訪れると聞きました。

禿:
外部からは緩やかなスロープを通じて中に入るようにしています。館内は全面平らで、作品の展示空間とショップ、カフェを一筆書きで巡ることができます。
鈴野:
展示は半年ごとに大きく変えています。館内に大型の可動式什器を5つ用意していて、そのレイアウトの変更や塗り替えをしながら、展示を自由にアレンジできるようにインテリアデザインを工夫しました。外観も展示の一部と考えて、イラストをラッピングしています。ファンの方が何度訪れても新鮮に楽しめるように、館内の展示と同様にデザインを切り替えていきます。

―――最後に、今後、ユニバーサルデザインはどういう方向に進化すべきか、考えをお聞かせください。

鈴野:
手すりをつけるか否かなどの物理的な面のほかに、もっと広い視野を持つことが大切だと思います。私たちが感じていないようなバリアを持っている人もたくさんいます。たとえば、日本にいる外国の方が暮らしにくい部分もバリアのひとつかもしれません。
もうひとつは、バリアを超えるためにテクノロジーをもっと使うことですね。たとえば、インダストリアルデザイナーの山中俊治さんが、とてもかっこいいパラリンピックの陸上選手の義足をつくっています。技術によって機能性を高めつつ、それをつけて走ってみたいと思わせるほどのかっこよさが共存している。
禿:
ユニバーサルデザインが専門分野として、特化して成長していくのは少し違和感があります。技術が少しずつなじんで融合するのが理想かもしれません。電動アシスト自転車のように、人間の力をちょっとサポートする感じで同居すると気持ちのいいユニバーサルデザインができる気がします。

―――本日はさまざまな視点からユニバーサルデザインについて触れていただき、ありがとうございました。

書籍「トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト」(TOTO出版)の情報はこちら
展示が行われた「TOTOギャラリー・間」の情報はこちら

「トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト」表紙

外観写真

「スヌーピーミュージアム」の外観。エントランスに向かう緩やかなスロープに沿ってスヌーピーの像が並ぶ(写真:阿野太一) 

管内写真

スヌーピーミュージアムの館内。大型のボックス状の什器の位置などを変え、自由に展示をアレンジする(写真:阿野太一) 

インタビューの様子

セラトレーディング 東京ショールームを利用した「トラフ展 インサイド・アウト」の展示。ふたりの作品、「空気の器」を天井から無数に吊り下げ浮遊感を表現

編集後記建築家というひとつの肩書きに収まらない、トラフの鈴野さんと禿さん。お話を伺って、建築やプロダクトデザインなどの異なるジャンルを飛び越えて、というよりも、その間を自由に行き来しながら発想を膨らませているように感じました。そのようにして、ものづくりのプロセスや、ユニバーサルデザインのあるべき姿もどんどん刷新していくのではないでしょうか。「かっこいいユニバーサルデザイン」「自然に人に寄り添うユニバーサルデザイン」という発想は、これから当コラムでもテーマとして追いかけてみたいと思います。日経デザイン 介川 亜紀

写真/大木大輔(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2017年2月20日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.46は、ケアコムとTOTOとの協業で開発した、
トイレでの転倒を防止する「見守り支援システム」の開発チームに話を伺います。
2017年4月17日公開予定。