ホッとワクワク+(プラス)

ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

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vol.44 インタビュー企画 直感的に、さりげなく目的地へ導く。情報のユニバーサルデザイン、サイン計画。

事務所近くの明治神宮の前で

vol.44 インタビュー企画直感的に、さりげなく目的地へ導く。情報のユニバーサルデザイン、サイン計画

事務所近くの明治神宮の前で

今回お話を伺ったのは、公共施設や交通関連施設などのサイン計画を手掛ける
i Design(アイデザイン)のデザイナー、宮本佳子さんと上條友也さん。
サインは、広くて迷子になりそうな空港や駅などであっても、目的の場所までスムーズに導いてくれます。
言葉が書いていないのに行く方向が分かったり、要所で自然に目にサインが飛び込んでくるのはどうしてなのでしょうか?
2人のデザイナーが担当した成田国際空港やJR西日本の駅の表示を例にとって、その理由を解き明かします。

サインは“見やすさ”“わかりやすさ”が基本

サインは“見やすさ”“わかりやすさ”が基本

宮本佳子さん(以下、宮本)
上條友也さん(以下、上條)

―――i Designは60年も続く、サインデザインの老舗です。
御社の手がけているサイン計画の特長を教えていただけますか?

宮本:
弊社は、空港や駅などの公共施設のサイン計画を手掛けています。
公共施設は多種多様な人が行き交う場所ですね。国内外の老若男女、身体のコンディションもさまざまです。視覚障がい者や聴覚障がい者、杖や車いすを利用するなど移動が困難な方もいらっしゃいます。公共施設でのサインはそのような、すべての方への「見やすさ」、「わかりやすさ」が大切です。
まず、「見やすさ」に重要なのは、“視認性”と“可読性”。
視認性には、文字の大きさや、サインの設置場所が大きく影響します。そして、可読性を高めるには、見やすい書体を選ぶことや文字の間隔、色のコントラストも大事。それらを配慮すると、色覚に障がいのある方にも分かりやすくなります。表示のレイアウトも合わせて工夫します。
宮本佳子さん

i Design デザイナー
宮本佳子(みやもと よしこ)さん
跡見学園女子大学短期大学部 生活芸術科卒業後、株式会社アイ・デザインに入社。
主に空港のサイン計画に携わり、成田、関空等のサイン計画を担当。成田空港第3ターミナルのサイン計画では、日本サインデザイン最優秀賞を受賞。

上條友也さん

i Design デザイナー
上條友也(かみじょう ともや)さん
千葉大学大学院工学研究科修了後、株式会社アイ・デザインに入社。
鉄道系サイン計画・グラフィックスを中心に携わり、工場のサイン計画、新設路線全駅のサインを設計する海外案件なども担当。

―――「わかりやすさ」は、サインの持つ意味をひと目で理解できるということですね。

宮本:
「わかりやすさ」のために、デザインには“統一性”、“連続性”をもたせます。あとは“単純性”ですね。文字だけだと理解しづらいので、ピクトグラムを取り入れて、わかりやすくします。
サインが見やすくわかりやすいと、多くの人が安全に、安心して施設を利用できる。それは、施設の信頼性にも繋がると思います。

―――i Designが創業してから60年の歴史の中で、どのような変化がありましたか?

宮本:
2001年8月に国土交通省によって「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」(※注)が策定されてからは、さまざまな障がいのある方と、現場でサインの検証をする機会が増えました。色覚障がいのある方や、車いすを利用する方々にご協力いただきました。
※注 現 2013年10月バリアフリー整備ガイドライン

―――最近、海外からの旅行者や滞在者も増えています。
海外の方に向けて、特別なサインをつくることもあるのでは?

上條:
公共施設では海外からのお客様の多少にかかわらず、必ずJIS規格のピクトグラムを使います。たとえば、空港から鉄道に乗り継ぐとき、ピクトグラムは共通している方が安心できますよね。単独の商業施設の場合では、オリジナルの、楽しいピクトグラムがあってもいいですよね。

ローコストと楽しさを目指した空港のサイン計画

ローコストと楽しさを目指した空港のサイン計画

―――2015年に開業した成田国際空港第3ターミナルのサイン計画も担当されたそうですね。LCC(格安航空会社)専用のターミナルですね。

宮本:
ええ。サインもローコストの徹底が求められました(笑)。同時に、旅に出る前のワクワク感をもっと引き立てるようなデザインを心掛けました。

―――コストを押さえながら、国内外の利用者に分かりやすいサイン計画を考える。ハードルが高そうです。

宮本:
はい。それを達成するために、主に3つの手法が取り入れられています。ひとつめはランニングトラック、2つめはキーウォールという壁面サイン、3つめはビニール系素材の布地を使ったサインです。
ひとつめは、その名の通り、陸上競技の選手が走ったりする競技場のランニングトラックのこと。第3ターミナルでは大きな荷物を引っ張りながら、長距離を歩かなくてはいけません。なかなか大変ですよね。だから、搭乗口へ向かう経路を、歩きやすく、直感的に誘導してくれる、ランニングトラックが採用されました。
使っている素材も、競技場と同じゴムのチップです。

―――2つめの、壁面サインの特長は?

宮本:
動線がくねくね曲がっているので、曲がるごとにサインを配置しました。通路を歩きながら自然に目に入るように、お客様の真正面に見え、前を歩いている人に隠れない高さを心掛けました。表示は、簡潔な言葉と大きなピクトグラムに絞りました。白と黒という、ごくシンプルな色調です。
壁面のサインは専用のフィルムに印刷して貼りました。切り捨てる部分がなるべく少なくなるように、ロールフィルムの幅を活かし、90センチに納まるようにデザインしたんです。このようにちょっとしたことでも、ターミナル全体で考えると、かなりのコスト削減になるんですよ。
羽田空港のサイン計画の記録集

1970年に発行した、i Designによる羽田空港のサイン計画の記録集。国際線到着ターミナルが完成した年

成田国際空港第3ターミナル1

ランニングトラックを模した通路。目的地までの距離も書かれている(写真:日建設計)

成田国際空港第3ターミナル2

動線の分かれ道の真正面に、黒と白で2方向のサインを描き分けた(写真:日建設計)

成田国際空港第3ターミナル3

トイレ入口のサイン(写真: i Design)

成田国際空港第3ターミナル4

布地の「到着」「出発」のサインはシンプルで見やすい(写真:日建設計)

―――トイレの前の壁面サインは等身大ですか?

宮本:
さらに大きいです(笑)。 建物の設計の兼ね合いで、幅は60センチと決まっていたので、それに合わせて全体のサイズを決めました。ちょうど、トイレの入り口の壁面の角でピクトを折り曲げて、「入っていく」ことを表現しています。

―――3つめのビニール系素材の布地を使ったサインは?

宮本:
一般的なサインは、「内照式」という半透明のボックスを中から照らすタイプが単体で設置されています。
第3ターミナルではこれをやめて、布地に印刷したサインを天井から設備梁に設置しています。この布地は屋外広告や垂れ幕によく使用するもので、メッシュ加工されています。
現場で検証していちばん見やすかったのが、布地が黒、文字が白のパターンでした。布地は、照明の光が当たったときにまぶしくないことが重要。光の反射を左右するのは、メッシュ加工の穴の大きさや数です。これも実際に布地を現場で設置してみて、いちばん反射の少ないものを選びました。

―――空港のような大空間でも見やすく、建築になじんでいますね。

宮本:
布地を使ったサインは建築の照明計画と合わせて配置を決めているので、見やすい明るさが確保されています。
今回のサイン計画は、建物の意匠設計や設備設計の方々、そして成田国際空港の広告担当の方々など、空間に関わる全員で議論しながらすすめました。その結果、サインは周囲に競合するものがなく、しっかり見えています。サインには、そういう役割を越えた議論が必要なんです。

海外からのお客様に向け路線記号を整理

海外からのお客様に向け路線記号を整理

―――JR西日本でもサイン計画を担当されています。

上條:
弊社では1996年から、JR西日本のサイン計画のマニュアルをつくってきました。最近では、海外からのお客様が増えてきたのを機に、新たにすべての表示への「路線記号」の導入をお手伝いしました。今、JR西日本の路線図を見ると、各路線にアルファベットがふられていると思います。
もともと、それぞれの路線には個別に色が決まっていて、お客様は行先の情報もたよりに乗車していました。でも、海外の方はもちろん、日本のお客様もそれだけでは分かりにくいわけです。

―――大阪駅を起点に、かなりの数の路線がのびていますね。

上條:
しかも、ひとつのホームに複数の路線が関わります。たとえば、大阪駅の1番線から出る電車は環状線のほか関西空港直通(S)、阪和線直通(R)、大和路線直通(Q)などがある。しかも、遠隔地に行ってしまう電車もあるので、乗り間違えると1日の旅行の計画が台無しになることもあります。
そこで、このアルファベットを、路線図はもちろん、ホームで行先を示す番線・方面サイン、走っている電車の行先表示にも取り入れ連携させました。アルファベットのフォントなどを揃え、いずれも同じことを意味していると一目でわかるようにしています。ホームの番線・方面サインと、すべり込んできた電車の行先表示のアルファベットが同じだったら乗り込む。
これは、JR西日本全体で徹底しているんですよ。先日、鳥取県を回ったときに見た境線に「C」がついていた。JR西日本管内で路線記号の普及が進んでいると実感しました。
JR西日本の路線図

路線図、停車駅案内図ともに共通の路線記号が使用されている(資料:i Design)

大阪駅構内1

ホームの看板と電車の行先表示にも路線記号を使用。字に敷いた色で判別する(写真:i Design)

大阪駅構内2

大阪駅改札付近の表示。出入り口と商業施設、交通機関を整理している(写真:i Design)

インタビューの様子

「できる限り多くの皆さんが分かるように伝えたい。創業以来、ずっと同じ思いで実績を重ねてきました」

―――大阪駅構内のサイン計画も大変だったそうですね。

上條:
先程のような電車の乗換えはもちろん、トイレや駅に入っている商業施設の方向など、サインに含めたい情報がたくさんありました。多くの情報を最小限に絞り込み、伝えるべき情報をしっかり見せるのがサイン計画の基本ですが、JRの方々との打合せでは、「どれも大切。落とせない」という意見をいただきました。お客様に必要なことは何でも伝えてあげたいという、JR西日本のお客様第一のサービス精神を感じましたね。「関西圏には商人気質があって、お客様に聞かれると対応せざるを得ない」というお話もありました。

―――最後に、日本の少子高齢化や国際化に向けて、サイン計画が進化すべき方向をお聞かせいただけないでしょうか。

宮本:
多様性に柔軟に対応できるテクノロジーなども融合させていかなくては、と感じています。たとえば、多言語表記をモニターで切り替えて、日本語、英語、中国語、韓国語以外の幅広い言語が表示される、ですとか。
上條:
国際化を目指すとき、実はあれもこれもたくさん情報を出すことだけでなく、必要な情報だけを厳選して表示するのが有効かもしれない。状況に合わせて必要な質・量の情報を出せるサインシステムを考えることも、私たちの仕事になっていきますね。

―――2020年オリンピック、パラリンピックに向かってサインは大きく進歩しそうですね。本日はサイン計画の前線のお話を、どうもありがとうございました。

編集後記公共施設などで普段何気なく目にしているサイン。一見シンプルなサインも、多くの情報を私たちに伝えてくれています。健常者も障がいのある人も含め、多くの人がひと目で理解できるサインは、いわば空間情報のユニバーサルデザイン。都市での生活に欠かせないものと再認識しました。サインに関西ならではのキャラクターが反映されている点は興味深いですね。今後、いろいろな地域のサインを観察したいと思います。日経デザイン 介川 亜紀

写真/鈴木愛子(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2017年1月23日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.45は、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんと禿信哉さんに、作品に潜む独自のユニバーサルデザインの理念について伺います。
2017年2月20日公開予定。

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