ホッとワクワク+(プラス)

ユニバーサルデザインの「今」がわかるコラムホッとワクワク+(プラス)

TOTOx日経デザインラボのコラムです。

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vol.29 インタビュー企画 TOTOの優しさをつくる人たち-第7回 企画者 朝倉 淳一さん

グリーンリモデルフェア2015 福岡会場のTOTOブースにて

vol.29 インタビュー企画TOTOの優しさをつくる人たち-第7回 企画者 朝倉 淳一さん

グリーンリモデルフェア2015 福岡会場のTOTOブースにて

「“流す”スイッチが一目でわかるスティックリモコンを」

vol.32ではデザイン性が高く、特にインテリア重視のユーザーが注目する
ネオレスト・スティックリモコンの企画者、朝倉淳一さんにお話を伺いました。
デザイン性を保ちながら、パブリック向けにより多くの方が使いこなせる汎用性を生むにはどうしたらいいのか。
スピード感を持って課題解決に取り組む姿に、企画者の真髄が見えてきます。

パブリック向けに汎用性を高めるため、スイッチの数を絞り込む

パブリック向けに汎用性を高めるため、スイッチの数を絞り込む

―――朝倉さんは製品の企画をご担当されているそうですね。

消費者ニーズやマーケットを調べながら売れそうな製品を検討し、投資効果も含めて企画として立ち上げるかどうか判断するのが私たち企画の部署です。それを実際に形にするのが開発です。私たちは現在、国内だけでなくグローバルに商品企画を進めています。
2010年から、私は弊社のウォシュレットの商品企画担当になりました。今回ご紹介するスティックリモコンの商品企画にも関わっています。これは住宅と、ホテルや商業施設などのパブリックの双方に使えるようにしたもの。ハイエンドなインテリアにもなじむ、高いデザイン性を目指していました。他にトイレの壁面に取り付ける紙巻器などとのコーディネートの美しさも配慮して、色調はシルバーに、幅は29センチに落ち着きました。現在は、国内外に向けてさまざまなスティックリモコンが用意されていますが、幅29センチというデザイン・ルールは現在も引き継がれています。

朝倉さんポートレートレストルーム商品統括グループ
グループリーダー
朝倉 淳一さん
九州工業大学大学院設計生産工学科を1998年卒業。大学院では流体研究室にてポンプについて研究。入社後、ビルリモデル開発課に配属される。2010年よりレストルーム商品統括グループで、国内外向けのレストルーム商品の企画を担当

ネオレスト商品画像 スティックリモコンを壁に取り付けたレストルームのイメージCG。黒を基調にしたシックな雰囲気になじむなど、パブリック空間の目指すデザイン性を表現(CG:TOTO)

―――パブリック向けは初期型と比べてどんなところが変わったのでしょうか?

トイレの水を流すためのスイッチの形状と位置、サインです。初めて使用される方は、上部のスイッチに気づきにくいかもしれませんね。住宅なら気軽に家族に尋ねられますが、公共の場で使われるとき、お客様は、流すスイッチの位置がわからないと非常に困る。流せないと、トイレから出られませんよね…。

―――なるほど。

スティックリモコンが公共の場で採用された際、「スイッチの位置がわかりにくい」という声が上がり、現場の担当者が壁に取り付けたリモコン上部に、大きく「流す」と手書きしたマークを貼ったりしていました。デザイン性にこだわってつくったリモコンに合っていない、残念なマークも目にしたことがあります。

―――その後、企画チームはどのように動いたのですか?

初めは、スティックリモコンの上部に取り付ける「流す」のマークが入った、デザイン性の高いプレートをつくろうという話になりました。半年ほどかけて一生懸命いろいろなプレートの案を考えたのですが、どれも納得がいかない。それで、徐々にリモコン自体をモデルチェンジする方向に切り替えて行ったんです。

―――全体を見直したわけですね。

結局、「流す」というスイッチを目立たせないといけない。そのためにまず、これまで上面側にしかなかったそのスイッチを、正面側に持って来ようと考えました。人間はやっぱり、正面に目が行きやすいんですよね。正面側にはもともと、「おしり」「ビデ」「位置調整」「水勢」っていうウォシュレットに関するスイッチがついていたんですよ。これだけ数がある中で、「流す」をどうやって目立たせるか、が大きな課題になりました。結局、ウォシュレットに関するスイッチの数を絞り込んで、ちょっと離れた位置に「流す」を独立させることにしました。

―――絞り込みは大変だったでしょうね。

ウォシュレットの操作の「止める」は絶対いるだろうし、「おしり」もあって、女性の方は「ビデ」も必要。「位置調整」は自分のお尻を動かせばなんとかできますが、「水勢」は自分の力ではどうしようもないので残さないといけないのではないか、という結論が出ました。また、ふたに直接触れたくないという声を踏まえて、ふたの開閉スイッチも残しました。こうして、ウォシュレット操作のスイッチを最低限に絞りました。
パブリック向けの製品なので、できるだけ幅広い人が使いこなせるように、必要最低限の機能を搭載する、という大原則を守る。加えてデザイン性を引き続き高める、ということです。

―――ノズル掃除用のスイッチも見当たりません。

ええ、これも課題になりました。商業施設などではノズルは、担当の方がまめに掃除してくださいますよね。掃除のたびに壁からリモコンを外して裏側のスイッチで操作する、というのはかなり面倒で、作業のタイムロスでしょう。それで、壁に取り付けたまま操作できるようにしたんです。あるスイッチを10秒長押ししてメンテナンスモードに入った後、他のスイッチを3秒押すと、ノズルがウィーンと出てくる。これを掃除の担当者に覚えてもらいました。

スティックリモコン・パブリックタイプ写真 1 インタビューのメインテーマ、スティックリモコン・パブリックタイプ。「流す」スイッチが他と離れた位置にあることと、正面と上面の双方にあることが特徴

スティックリモコン・パブリックタイプ写真 2 初期型。操作するスイッチの種類が多く、流すための「大」「小」「小eco」が上面にある。真正面から見ると少々気づきにくい

ボタンを大幅に減らしたパブリック向けのリモコン 家庭用と比べ、パブリック向けのスイッチは17個から7個まで減らした

―――デザインはいかがでしょうか?

これまでは、スイッチの上にあるマークを指で押していたわけですから、特に使用頻度の高い現場では、擦れて消えることが想定できたので、指で押す部分とマークを切り離したんですよ。でも、押す部分とマークはきちんと一体化して見えるように、デザイン的に工夫しています。
海外の方々の使用に向けて、スイッチに採用する英語の文言も悩みどころでした。デザインを壊さずに、しかも意味が通じる英語を考えないといけない。完璧に伝えることにこだわると、長い文章になってしまいますし(笑)。

―――盗難防止の工夫もあるようですが?

実は、このリモコンはごくシンプルな仕組みで壁に強固に固定できる、盗難防止の部品がついています。パブリックでは、盗まれる可能性もあるんですよ。盗難防止用のごく小さな部品があり、壁面に取り付けたハンガーにをリモコン本体の裏側で2本のネジを組み合わせて留める。たったこれだけですが、まず外れません。

―――盛りだくさんのモデルチェンジですね。

そうですね。方針が決まってからはかなりの短期間でこなしました。2013年4月くらいに始めて8月に発売しています。弊社の商品開発は通常、2、3年かけることも少なくない。そんな中で、4カ月で完成させたのは非常に珍しいかもしれません。
短期間の開発が可能だったのは、実は、スティックリモコンのシリーズは内部の部品が共通で、表面を着せ替えできるようになっているからです。内部の部品にはトイレまわりで必要と思われるすべての機能とスイッチの基板があり、表面にかぶせるパネルにはその機種に必要なスイッチだけつくればいい。 当製品は、国内向けだけでなく、海外向けにもさまざまなバリエーションを持っています。それぞれの国の慣習に合わせて、表面のスイッチの組み合わせを簡単に変えられるので、開発期間もぐんと短縮できました。

スティックリモコンとパネル 上/発売された順に並べたスティックリモコン。初期型は丸いスイッチが特徴的。現在のスティックリモコンは角型基調にフルモデルチェンジ。一番下のパブリックタイプはスイッチの数を最小限に 下/上面の流すボタンに注意を促すパネルも別途作成していた

インタビューの様子 朝倉さん

盗難防止の仕組み 盗難防止の仕組み。本体に凸型のパーツ(印)を差し込み、壁に設置するハンガー(下)にねじで留めるだけだが、まず外れない

リモコンを分解した様子 リモコンを分解した様子。上の2点が表側のパーツ。それ以外のパーツは内部を構成するもので、いずれの製品も共通。指さしているのは機能をつかさどる電子基板

ネオレストに標準搭載のリモコン ネオレストに標準搭載のリモコン。プラスチック製で親しみやすいイメージ

中国向けのスティックリモコン 中国向けのスティックリモコンは、現地で人気の高いゴールド。「中国では壁付にせず、ひとりひとり手に持って使用するようです」(朝倉さん)

―――今後、トイレとリモコンはどのような方向に発展していくのでしょう?

海外では、ウォシュレットはまだ一般的ではありません。そういった状況の世界各国に、どのようにウォシュレットを普及させるかがここ5,6年の大きな課題です。今後、受け入れられていくには、デザインがキーになると思います。特に欧州ですね。機能は納得のいくレベルに達しつつあると思いますので、意匠(見た目)デザインに注力していきます。また、海外のユーザーに受け入れられると言うことは、パッと見てすべてが分かり使いこなせること、つまりUDが重要でしょう。文字やピクト、スイッチの形状、空間の提案も含めて。

―――UDによって、製品が国境を超えるのですね。数えきれない配慮から企画が形になることを実感しました。どうもありがとうございました。

ありがとうございました。

編集後記 実は、「ホッとワクワク+」のインタビューで、商品企画のご担当に登場いただくのは初めて。お話を伺っていると、マーケティングなどの客観的なデータとともに、社内でのさまざまな意見、エンドユーザーの声など幅広い情報をまとめ苦心して企画に統合していることが分かります。 内部の部品を共通化しまわりだけ着せ替えて、迅速に企画・開発をすすめる方法はなるほど合理的。変わりゆくユーザーの好みをすかさずキャッチアップして、ビジネスチャンスを逃さない。国際社会を生き抜くTOTOの競争力がこんなところにも表れています。
なお、今回ご紹介したリモコンを、4ヶ国語説明表記している成田国際空港の『GALLERY TOTO』特設WEBはこちら日経デザイン編集者 介川 亜紀

写真/イクマサトシ(特記以外) 構成・文/介川亜紀 監修/日経デザイン 2015年7月27日掲載
※『ホッとワクワク+(プラス)』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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次回予告
vol.33は、車いす対応の洗面カウンターやコーナータイプの洗面カウンターの企画者にお話を伺います。
2015年8月31日公開予定。

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