Case #5

In Harmony with the Landscape 05
森と住宅を緩やかにつなぐ作法

公園の端部に計画された住宅。
公園の森に対してオープンでありながら、緩やかにつなぐために、パーゴラという緩衝帯を挿入している。
地元フランドル地方に伝統的に使われているレンガを用いて街並みに合わせているが、開放感をつくることで、歴史と現代を融合させた風景をつくり出した。

作品 「DDレジデンス / DD Residence」
設計 ヴィンセント・ヴァン・ダイセン

テキスト/新建築社
撮影/Koen Van Damme

  • 公園から見る北西側全景。公園という特別な環境のため、パブリックとプライベートのつながりを緩やかにするよう緩衝帯となるパーゴラが設けられた。レンガはフランドル地方の伝統に根差したもので、この住宅のために特別に再現された。

公園と住宅を結ぶ緩衝帯としてのパーゴラ

「DDレジデンス」が建っているベルギーのウェスト=フランデレン州ワレヘムは、中世より繊維業が盛んな地域であった。湿度をもたらす北海からの風と温暖な気候が、フランドル地方に亜麻(あま)を育成させるのに適した土壌を育み、さらにレイエ川を利用した水運にも恵まれ、何世紀にもわたって亜麻が栽培された。
このような穏やかな気候の都市ワレヘムにある公園に住宅は計画された。隣地には農場と小さな母屋があり、その風景に呼応するように、また公園という特別な空間価値を最大限に活かす建築が模索された。
まず配置計画では、公園の端部に位置する関係から、道路側にはマッシブなレンガの表情を対峙させ守られている感覚を生みつつ、公園側に対しては開くことで外部とのつながりを強調した。ただし、パブリックとプライベートのつながりを緩やかにするように、パーゴラで囲まれた中庭が公園の森との緩衝帯になっている。リビングルームやキッチンからはパーゴラ越しに美しい樹木が見える。

  • 道路側から見る。マッシブなレンガの表情を道路に対峙することで住宅の堅牢さを表している。

地域に根差した建築素材

住宅を構成するレンガはフランドル地方の伝統に根差したもので、「DDレジデンス」のために特別に再現された。開口部にはアルミフレームが使われているが、色を揃えることで落ち着いた外観が構成されている。内部では素材の特徴が顕在化するよう、白色の空間の中に、風化処理を施しているベルギー産のブルーストーンとオーク材がポイントで使われている。白い仕上げと自然の素材を組み合わせることで、住宅の中に降り注ぐ自然光や、緑に満ちた公園の美しく古い樹木の眺望を際立たせる静謐な雰囲気をつくり出している。

  • 北東側にあるエントランスを見る。道路側に対して開口部をもたないマッシブなボリュームをつくっているが、低い壁面を内部に挿入させる構成で入口を暗示している。

  • パーゴラを見る。スティールの柱とアルミの薄板でつくられている。

パブリックからプライベートへの緩やかなつながり

内部の平面計画もパブリックからプライベートのつながりが考えられている。エントランスは道路側に面していて、外観はレンガのボリュームで構成されているが、低い壁面を内部に挿入させることで入口の存在を暗示している。エントランスホールに入ると小さな中庭が見えて、そこから自然光がもたらされる。ここはセミパブリックゾーンといえるところで、その先に各部屋があるのだが、大きな引戸によってそれぞれの空間のつながりがコントロールされている。
家族のためのキッチンは開放的な明るい空間で、天井の高さをパーゴラと揃えることで、パーゴラ、さらには公園へのつながりを表現している。ベッドルームはこの地方の伝統にならって2階に配置された。

  • 中庭からエントランスホールを見る。パーゴラのある風景がガラスに反射して見えている。

形ではなく空間をデザインする

「DDレジデンス」を設計したヴィンセント・ヴァン・ダイセンは、クライアントの暮らし方や快適性を考え設計活動をしている。そのため、ライフスタイルに関わるファッションや家具など、デザインのあらゆる面に深い関心を寄せている。さまざまなデザインが結びついているミラノでの事務所勤めやインテリアデザイナーのもとで働いた経験が生かされているといえよう。プロダクトデザインと建築には強い関係性があると確信していて、家具などのデザインも手がけている。
しかし、彼は建築家であり、建築的な視線が常にあるため、家具やプロダクトを形態的な操作で終わらせるのではなく、空間的な関係性を形づくるものとして考えている。空間をデザインするということがヴァン・ダイセンの特徴であろう。
また、その建築はミース・ファン・デル・ローエなどに見られる合理的で幾何学的な構成と、シーグルド・レヴェレンツのように詩的で芸術的な側面を兼ね備えている。「DDレジデンス」でも、パブリックとプライベートの関係を合理的に解決しつつ、美しい水平線を構成して周囲とのつながりを大切にした。

  • 屋根付きテラスからキッチンを見る。床は風化処理を施しているベルギー産のブルーストーン。

  • キッチンやテーブルのデザインもヴィンセント・ヴァン・ダイセンによる。

  • 2階にあるマスターバスルーム。木の棚以外は白で統一されている。

  • 中庭とエントランスホールを見る。

「DDレジデンス / DD Residence」
  • 建築概要
    所在地 ベルギー、ワレヘム
    クライアント 個人
    設計 ヴィンセント・ヴァン・ダイセン
    施工 デデイン・コンストラクト
    階数 地上3階
    敷地面積 5,605㎡
    建築面積 538㎡
    延床面積 762㎡
    設計期間 2010年6月〜2011年12月(インテリアデザインと家具デザインを含む)
    施工期間 2011年3月〜2012年12月

Profile
  • ヴィンセント・ヴァン・ダイセン

    Vincent Van Duysen

    1962年にベルギーのローケレンで生まれ、シントルーカス建築大学ゲント校で建築の学位を取得する。1986〜1987年にミラノでソットサス・アソシアーティ・オフィスのアルド・チビックと協働。その後1987〜1989年にはベルギーのジャン=ジャック・ヘルヴィー、1989〜1990年にはアントワープのジャン・ド・ムールダーのもとで働き、1990年アントワープに建築およびインテリアを専門とする事務所を設立。

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