Case #4

In Harmony with the Landscape 04
広漠とした風景の中にたたずむ
幾何学的形態をまとった建築

大自然に包まれた岬の突端に建つ別荘。
眼前に広がる大海原の感動的な風景を楽しみながらも、人を守るシェルターとしての建築がつくられた。
地形、気温、風などの物理的な自然の解釈だけではなく、感動や恐怖という人間の感情を含めて風景と建築を結びつけるという建築家の考えが反映され、風景との協調と建築の自立性が表現された。

作品 「ポリ・ハウス / Poli House」
設計 ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼン・アーキテクツ

テキスト/新建築社
撮影/Pezo von Ellrichshausen Architects

  • 北東側から見る。人がほとんど住んでいないコリウモ半島の太平洋を見下ろす傾斜地に建てられた。別荘としてだけではなくワークショップや展覧会などに使用するパブリック機能も合わせもつ。

自然を享受しつつ建築の力強さを表す

南米大陸の西に位置するチリは、南北約4,630kmあるのに対して東西平均約175kmと細長く、地形も気候も変化に富んでいる。砂漠が広がる北部、肥沃な農地が広がり首都のサンティアゴなど主要な機関が集まる中央部、森林が広がり湖と火山が点在している南部、風が吹き気温も低いパタゴニアと、場所によってまったく様相が異なっている。
「ポリ・ハウス」は、サンティアゴから550km南下したチリ中央部のコリウモ半島に建つ。周囲には農業や漁業を営む住民が住み、ときおり訪れる旅行者が見られるくらいの静かな場所であるが、特に「ポリ・ハウス」が建つ岬の突端は、低い草に覆われた風の強い場所で、ほとんど人が住んでいない。この岩と海しか見えない広漠とした風景の中で、自然のもたらす感動を享受しつつ、人間を守るシェルターとしての建築がつくられた。断崖の先端に可能な限り接近させることで建物の建つ場所性を強調させ、立方体の形態とランダムな開口部で自然に対峙する建築の力強さが表現された。

  • 北西側より見上げる。

  • 外壁詳細。壁体に厚みをもたせることで台所、階段、トイレ、シャワー室、クロゼット、バルコニーなどの諸機能が壁体に収まる設計になっている。また、この壁厚がブリーズ・ソレイユの役割を果たすと同時に太陽と雨から窓を保護している。外壁はコンクリート打放しで、型枠に使われた木材は内装材などに使用されている。

パブリックとプライベートを曖昧にする内部空間

「ポリ・ハウス」では、夏の別荘と、集会やワークショップ・展覧会などに使用するパブリック機能が求められた。公共性を維持しながらプライベートな場所をつくるという相反する空間を両立させるため、スキップフロアで上下階をつなぎ、さらにあえて用途を明確にしない、曖昧な部屋をつくることで、パブリックとプライベートを緩やかにつないでいる。また、波が打ち寄せる断崖や強い風という外部の自然を室内でも感じ取れるよう、北西に向いている部屋を3層吹き抜けにして、落下、眩惑、重力という、この場所のもつ空気感もつくり出した。

  • 1階の展覧会などでも使用される3層吹き抜けの空間。窓越しに太平洋が望める。この3層吹抜けはパブリックとプライベートを緩やかにつなげる役目もある。

重機を使わないコンクリートと型枠の再利用

諸機能はすべて、厚みのある外周の壁体に収められている。この機能帯に台所、階段、トイレ、バルコニーなどが置かれていて、必要であれば、家具などを収納することができ、多様なアクティビティのための空間として開放することができる。
躯体のコンクリート打放しには、未加工の木型枠が使用され、小型ミキサー1台と手押し車4台で職人の手によってつくられた。また、躯体完成後、型枠に使われた木材は、内部空間を包む内装材などに使用された。辺境の地において、できるだけ環境に負担をかけない建築のつくり方が、ここでも試みられている。

風景との関係、人の暮らしを読み解く

チリは1990年に軍事政権から民主的な文民政権に移管して、その後安定した経済成長と共に建築プロジェクトも増え、自由な発想の建築家が生み出されている。建築展で有名な東京・乃木坂のTOTOギャラリー・間でも、アレハンドロ・アラヴェナやスミルハン・ラディックなど、チリの建築家が取り上げられた。
「ポリ・ハウス」を設計したマウリシオ・ペソとソフィア・フォン・エンリッヒスハウゼンも世界で注目されている建築家で、特に、シンプルな幾何学を用いた表現が独特の個性を放っている。ではなぜ幾何学を用いるのか。それは、古典的ともいえる幾何学の形態に、建築の可能性がまだ多く含まれているということの表明なのだと思われる。さらに詳細に見ていくと、単なる幾何学だけではなく、風景との関係、人の暮らし方を丹念に読み解いていることがわかる。「ポリ・ハウス」では開口部をずらすことと、スキップフロアにすることで、上下に視線を誘導させ、周囲の海や空を感じられるようになっている。
最後に彼らから届いた風景と建築の関係についてのコメントを紹介する。「建築が建つ場所には多くの風景があります。近くにある土や岩、遠くに見える水平線、風、温度、香りも感じられます。しかしそのような物理的なものだけではなく、記憶、直感、恐怖、欲望という人間の感情も考えなくてはいけません。どのくらい崖の端に近づくことができるのかというのも経験からわかっています。この人間のスケールを組み込むことによって、建築と複雑な風景を結びつけるのです。結局のところ、自然を解釈して人と結びつけるのが建築だと思います」。

  • 2階キッチンがある食堂空間。パブリックとプライベートをゆるやかにつなぐよう、部屋の用途を明確にせず、あえて室名をつけていない。

  • 1階のリビング空間。プライベート時はリビングとして、パブリック時は来訪者のロビーとしても使える。

  • 3階ベッドルーム。左側はシャワー室。

「ポリ・ハウス / Poli House」
  • 建築概要
    所在地 チリ、コリウモ半島
    クライアント ポリ・ハウス・カルチャー・センター
    設計 ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼン・アーキテクツ
    施工 PvE
    階数 地上3階
    敷地面積 10,000㎡
    建築面積 92㎡
    延床面積 180㎡
    設計期間 2003年1月〜2003年10月
    施工期間 2003年10月〜2005年2月

Profile
  • ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼン・アーキテクツ

    Pezo von Ellrichshausen Architects

    マウリシオ・ペソ(左)とソフィア・フォン・エルリッヒスハウゼン(右)によって2002年にチリのコンセプシオンに設立されたアートと建築の事務所。ペソはサンティアゴのカトリック教皇大学とコンセプシオンのビオ・ビオ大学で建築を学び、エルリッヒスハウゼンはブエノス・アイレス大学で建築と都市計画を学んだ。

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