旅のバスルーム 100

浦一也の「旅のバスルーム」
中華人民共和国・香港
ザ・アッパー・ハウス

竹とライムストーンのミニマルデザイン

文・スケッチ/浦一也

  • 絶妙な高さ計画によるバスルーム側のセクション。

  • ビューの軸線と明解なオープン・プランで構成された平面。

  • バスタブ縁に置かれたバスソルトなどのアメニティ。

 連載100回目だそうだ。はじめの頃は三日坊主になるかなと思っていたのだが23年間よく続いた。みなさまのおかげです。
 今回は建築家やデザイナーに人気がある香港のザ・アッパー・ハウス。デザインはあのアンドレ・フー(*)。
 2009年竣工。香港島側の高級ホテルが多いパシフィック・プレイスのなか、JWマリオットと同じビルに入っている。
 客室は117室。ストゥーディオ70、ストゥーディオ80、アッパースイート、ペントハウスの4タイプあるが、ストゥーディオ70のハーバー・ビュー側に投宿。68㎡とうたわれている。料金はやや高額だが、その価値は十分にある。パブリックは縦格子を多く使っていてソフィスティケートされた日本的な印象。フロント・レセプションは小さく、そこから6階まで異次元に上るようなエスカレータで導かれる。
 この部屋は46階の2ベイを使っていて1ベイは水まわりとワードローブなどドレッシング関連だけ。バスタブは部屋の真ん中にあってビューがすばらしい。洗面台からもミラーのあいだに外が見え、全体がオープンに近い。パウダーコーナーのデスクの上、化粧鏡は照明が入っていて動くのがおもしろい。クロゼットにヨガマットがあるのを見つけた。
 もうひとつのベイはベッドとソファ、バー、ライティングデスクなど就寝とパーラーゾーン。ワインセラーにあるたくさんのドリンク類はすべてフリーチャージ。大きな窓からハーバーや対岸の九龍半島にある高さ494mの超高層「環球貿易廣場」ビルを望んでいると時を忘れる。
 機能をふたつのゾーンに分け、ビューとテレビの軸線を根拠にした客室プランニングは明解そのもの。床はタモのような素木(しらき)のフローリングとライムストーン、ライトグレーのカーペットで明るい。壁は細かなところまで「竹」材の練り付けに徹していて木材・木質はいっさい使っていない。天井にはもちろん何も付いていない。ディテールは引き戸や扉の把手などまでよく考えられていて腑に落ちる。
 素材や色彩が抑えられ、間接照明は各所に仕込まれていてガラスへの映り込みを避け、全体に上質感があふれている。ミニマリズムのいいところが出ていて、これはデザイナーに好評なはずだ。
 最上階の「カフェ・グレイ・デラックス」で朝食をとる。香港のシェフ、グレイ・クンツ氏の料理。アプローチやダイニング空間上部は縦格子デザイン。ハーバーサイドは朝から予約で埋まっているという。さもありなん。
 久しぶりの香港。さて今日は「環球貿易廣場」ビルの上からこちらを望んだり、アイランド側旧市街の長ーいエスカレータに乗ったりして飲茶の店を探して歩こうか。

   

*Andre Fu(1975〜):香港生まれの若き建築家、インテリアデザイナー。14歳からイギリスで教育を受け、ケンブリッジ大学卒業。AFSOを設立。代表作に「ザ・アッパー・ハウス・香港」(2009)、「ザ・フラトン・ベイ・ホテル・シンガポール」(10)、「フォーシーズンズ・ソウル」(15)など。

The Upper House
Add Pacific Place, 88 Queensway, Hong Kong
Phone +852 2918 1838
Fax +852 3968 1200
URL www.upperhouse.com
Profile
浦一也

Ura Kazuya

うら・かずや/建築家・インテリアデザイナー。1947年北海道生まれ。70年東京藝術大学美術学部工芸科卒業。72年同大学大学院修士課程修了。同年日建設計入社。99〜2012年日建スペースデザイン代表取締役。現在、浦一也デザイン研究室主宰。著書に『旅はゲストルーム』(東京書籍・光文社)、『測って描く旅』(彰国社)、『旅はゲストルームⅡ』(光文社)がある。

写真/山内紀人

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