旅のバスルーム 102

浦一也の「旅のバスルーム」
西日本
TWILIGHT EXPRESS 瑞風

ツインルームは10㎡

文・スケッチ/浦一也

  • ベッドは壁に収納される。

  • TWILIGHT EXPRESS 瑞風のポスター原画。

  • ドアと可動壁を開けると廊下側の窓からの眺望も得られる。

  • アールデコにも通じる青海波(せいがいは)模様のスイッチプレート。

 初めての手前味噌をお許しいただきたい。
 6月に運行を始めたJR西日本の寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(以下、瑞風)のプロジェクトにかかわってきた。瑞風は風光明媚な山陰・山陽を10両編成で1泊か2泊の5コースでめぐる。
 船や自動車と同様に「敷地」というコンテクストをもたない。軌道の幅は1067㎜。動力、重量、構造、不燃、振動など建築とはかなり異なる。しかしコンセプトは「美しい日本をホテルが走る」として上質なホテルのようなインテリアを求めた。
 デッキのある展望車、ダイニングカー、ラウンジカーなどを備え、ゲストルームはツイン、シングル、スイートなど16室。
 乗客の利用層を考えると、新しいのになんとなくなつかしくノスタルジアを覚えるインテリアデザインとして、昭和初期に一世を風靡した「アールデコ」を基調とした。それは直線的、幾何学的な白黒模様や市松柄の床パターン、グリルなどの意匠、ファブリック、テーブルウエア、家具や備品、サインにもおよぶ。色はモノトーン、木や石など種類を抑えながらも強いコントラストを多用し、アールデコにこだわった。
 大きいフィックス窓と、風が入る小さな窓もある。バスルームはシャワーとし、1両1室のスイートルームだけ猫足のバスタブを備えている。
 ドアは中国地方5県の特産木材。壁の目地には京都の組紐をあつらえて叩き込んだ。電灯点滅のスイッチはなつかしいトグルスイッチ(*1)を採用して、プレートは京都の錺(かざり)職人の手になる彫金。当代の作家や職人が快く制作してくださったこともうれしい。
 そのほか西日本各地の伝統工芸品や茶道具の名品、版画や彫刻、ヨーロッパのアンティークなどを集め各所にちりばめた。車内各所のアートなどを見歩いて「もうひとつの旅」を楽しんでいただきたいと考えている。
 19世紀末、ジョルジュ・ナゲルマケールス(*2)という男がいた。
 国際寝台車会社「ワゴン・リ」をつくり、パリからユーラシア大陸各地に寝台列車を走らせた。オリエント・エクスプレスである。設備も十分とはいえないながら、そこに何日も乗り込んでおいしい料理をいただくことが旅の究極の姿だと世に知らしめた。その夢が途絶えることなく続いている。
 今やどこでも「日帰り」ができるようになってしまったわが国の観光事業はとても難しいものがあるのだが、総人口の27%強が65歳以上という時代になって寝台列車をゆっくりと利用する古くも新しい旅の姿が現れた。
 この旅はいったいなんなのだろうか。それをなんと呼ぶのだろうか。

   

*1/トグルスイッチ:つまみ状の操作レバーを倒すことで電気回路を切り替える構造のスイッチ。
*2/Georges Nagelmackers(1845〜1905):ベルギー人実業家で国際寝台車会社の創業者。1883年頃からパリを起点として、コートダジュール、リスボン、サンクトペテルブルク、シベリアなどにオリエント・エクスプレスを運行させた。

TWILIGHT EXPRESS 瑞風
事業主 JR西日本
主要用途 寝台列車
設計・監理 JR西日本、浦一也デザイン研究室、エイアンドエフ、日建スペースデザイン
URL twilightexpress-mizukaze.jp/
Profile
浦一也

Ura Kazuya

うら・かずや/建築家・インテリアデザイナー。1947年北海道生まれ。70年東京藝術大学美術学部工芸科卒業。72年同大学大学院修士課程修了。同年日建設計入社。99〜2012年日建スペースデザイン代表取締役。現在、浦一也デザイン研究室主宰。著書に『旅はゲストルーム』(東京書籍・光文社)、『測って描く旅』(彰国社)、『旅はゲストルームⅡ』(光文社)がある。

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