TOTO創立100周年特集

第4回 建築と未来

特集の最後となる第4回では、建築とその未来について考えてみたいと思います。
新しい発想やテクノロジーによってつくられた近年の建築を元に、少し先の建築のあり方を探っていきます。
そして、未来へ近づくTOTOの新しい技術や製品もご紹介します。

取材・文・写真提供/新建築社(ネオレストNXの写真除く)

  • TOTO WATER TECHNOLOGY
    Wherever you feel the touch of water, you will find us.

近代主義の次へ進み出した建築

 西洋から起こった近代主義思想の広がりは、建築に大きな影響を与えた。どこでも同じものを、より早く、たくさんつくることができるようになった。日本では戦後の高度経済成長期とも相まって、建築のシステム化、プレファブ(プレキャスト)化、パッケージ化が進んだ。多くの建築は現在もその広がりの中にあるし、恩恵を被っている。いわゆる便利で快適な生活を人々にもたらしたのだ。ただ、行き過ぎた資本主義に後を押されたかたちで、建築は経済性と引き換えに、人間にとって重要な地域性や多様性を失いつつあるように思われる。
 一方で、CGシミュレーションやBIMなど、コンピュータの進化によって設計・生産・施工の効率は劇的に向上し、同時に自由度も大幅に高まっている。構造や設備においては目覚しい進展が見られ、それまで制約とされていた多くのものから解き放たれた。結果、本来あるべき建築のあり方が模索されている。テクノロジーによって自由を得た先進的な建築家たちが、人の自由な感性に根ざした、より人間中心のつくり方を目指し始めている。

人と環境、いずれにも優しく

 未来の建築を考えるとき、地球環境への負荷をできうる限り小さくしようとするのは大前提だろう。それは新たな「制約」ではなく、人が空気を吸うように、当たり前のこととなるはずだ。
 「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(設計:伊東豊雄建築設計事務所)では居住域空調換気を採用し、外部との中間領域を設定。エネルギー消費を大幅に削減した。トップライトから吊られる「グローブ」と呼ばれる巨大なランプの傘のようなオブジェクトが、空気の流れを効果的に促し、光を拡散し、包まれたような人の居場所をつくる。空調や照明が決して過度とならずに、ちょうどいい空気と光がある状態をつくっている。膨大かつ緻密なシミュレーションの成果だ。
 「直島ホール」(設計:三分一博志建築設計事務所)では2年半をかけた周辺地域のリサーチに基づき、立地する島に吹く風の流れをそのまま建築に取り入れた。入母屋の穴に風が通る際の気圧差を利用して、穏やかな気流が起こる。熱容量の大きい盛り土に埋まったホールは気候にかかわらず、快適な温度を保つ。
 「嬉野市立塩田中学校」(設計:末光弘和+末光陽子/SUEP.+佐々木信明/インターメディア)では、風景と領域をつくるY字型の構造ユニットが、雨水や太陽熱を集める循環システムの一部にもなっている。
 熱や空気といった流体を丁寧に観察し、自然に発生するものは極力利用する。これらはいわゆるパッシブデザインという考え方に属するものだ。そして環境に優しくても、中にいる人間が我慢を強いられるようでは未来足り得ない。意匠も含めて人が心地良く感じられる場を提供し、立地や用途など状況に応じて、よりきめの細かい環境設計がなされていくだろう。
 水まわり製品の開発も流体とは切っても切り離せない関係だ。TOTOでは、少ない水でより確かな洗浄を可能にした「トルネード洗浄」を代表として、流体制御をさらに進化させている。
 「エアインワンダーウェーブ洗浄」は、「ウォシュレット®」の洗浄水で連射される秒間100個という水玉に空気を含ませ、その大きさを約30%拡大し、当たり心地のたっぷり感を向上させた。シャワーの新吐水方式「コンフォートウエーブ」では、ノズル内部の形状を工夫し、カルマン渦列(交互に生まれる反対向きの渦)を生じさせて水がスイングしながら出てくる「ウエーブ吐水」を取り入れ、適度な刺激感を与える。いずれも節水をしながら、水の量感を高めることで心地良さを追求したものだ。感性評価はアナログに人が実際にモニターするしかない。TOTOでは綿密なモニタリングの結果を解析し、刺激感や量感と快適性との相関を得た。未来の技術も人自身が持つセンサーが重要なのだ。

 
 
  • みんなの森 ぎふメディアコスモス

  • 直島ホール

人の感性に寄り添った構成や形態

 柱はほとんどの建築にとって不可欠なものと考えられている。しかし、人にとって空間はできる限り自由であったほうがいい。もし仕切ったり、囲んだりする必要があれば、そのためのデザインをすればいい。「不可欠なもの」とされる構造や設備を始め、建築そのものが機能に対し合目的的になりすぎて、楽しく活動したり、気持ち良くくつろぐという人の感性を必ずしも満たしきれていないのではないだろうか。
 「神奈川工科大学 KAIT工房」(設計:石上純也建築設計事務所)は巨大な平面を無数の細い鉄骨柱によって緩やかに領域を分け、森のような風景をつくっている。柱はあるが人はそれを柱と感じない。ランダムに建てられたように見える柱の位置は、専用のプログラムを使ってスタディを重ねた結果だ。
 「ホキ美術館」(設計:山梨知彦+中本太郎+鈴木隆+矢野雅規/日建設計)は、写実絵画専門の美術館で、細密で具象的な作品に集中できる環境づくりを徹底した。全体が回廊(ギャラリー)を積み重ねたような構成で、柱はもとより照明器具から空調のスリット、壁や天井の目地も床の足音も、鑑賞を妨げる存在は極限まで廃した。構造もそれに従っている。また展示室にあえて自然光が入るように設計された。
 「グレイス・ファームズ」(設計/SANAA)は米・コネチカット郊外にある財団運営の地域交流施設だ。広大な丘陵地のランドスケープに、ホールやライブラリ、食堂やバスケットコートなどの各アクティビティーをつなぐ建築が、川が流れるようにプランされている。“川の流れ”のままに移動すると、雄大な自然の景色やアートなどがシーケンスを埋めていく。感性に訴える仕組みを設け、移動という体験をより魅力的なものへと変換した。
 機能や効率が空間の構成を決めていくのではない。人の感性に寄り添った、人がより自然にふるまえる空間。生物のスケールからは重厚で巨大な存在である建築が、人間の生理や行動により忠実になっていく。
 トイレもかつては機能が形態を決定していた。タンクも便器も温水洗浄便座もそれぞれが独立した存在で、使いやすさや機能は十全であっても、感性という領域ではまだまだ及ばなかった。
 TOTOは、「ネオレストNX」で真の一体形として、便器と「ウォシュレット®」の区別なく“ノイズレス”な曲線フォルムを生み出した。焼成や乾燥における変形を分析し、陶器と樹脂部分で調律のとれた成形を実現。ディテールに研鑽を重ね、メカニカルなプレゼンスを廃し、感性に満ちた美しい佇まいは、まさに未来のトイレだ。
 「クレイドル浴槽」の、その名の通りゆりかごをイメージした浴槽デザインは、安らぎを感じさせるだけでなく、人間工学を追求。緩やかなカーブはまたぎやすく、入った状態では手をかけるのにちょうどいい。内部にも背中や首などを支える柔らかな曲面を設け、体をしっかり支え、安定した入浴姿勢を促す。
 また、くびれや曲面によって美しさと使いやすさを兼ね備えた台付き混合水栓「GOシリーズ」は、2017年のレッドドット・デザイン賞における最優秀賞「best of thebest」をTOTO製品として初受賞。ステンレスの溶接によって、エッジ3㎜のスパウトを実現した洗面水栓「ZLシリーズ」など、TOTOの人間を見つめたデザインは、深化を続けている。

  • ホキ美術館

  • グレイス・ファームズ

人が温もりや親しみを感じる素材

 未来の建築素材については、予測しきれないほど多様に開発され、今は想像のつかないものも生み出されるだろう。これまでの流れに則り、実際に手に触れ、目にする可能性のあるものを中心に考えてみたい。
 コンテクストを重んじ、サイトスペシフィック的であろうとする建築の多くは、その素材にもローカリティーを反映している。建築のロジックに基づくとともに、人間の感性にも大きく影響するからだ。
 「安曇野市庁舎」(設計:内藤・小川原・尾日向設計共同企業体)では、高強度PCaを多用した構造ながら、内外装に地場のヒノキやカラマツのパネルをふんだんに使用している。業務施設の無機質さから離れた、ハイタッチな印象を与える。
 「道の駅ましこ」(設計:原田真宏+原田麻魚/マウントフジアーキテクツスタジオ)では、構成と形態の核である、大スパンを生み出す屋根架構が地場産のスギ集成材(加工自体も地元工場)によるものだ。架構を受ける台座部は地元の土を用いた左官仕上げになっている。
 「中国美術学院民芸博物館」(設計:隈研吾建築都市設計事務所)は、中国・杭州にある国立美術大学の博物館で、なだらかな起伏のある斜面に建つ。中国の粗野で素朴な古瓦を屋根だけでなく、ワイヤーで自立させ、スクリーンとして大量に使う。内装では木材が中心だ。
 日本で好まれる内装用の塩ビシート材は木目を模した柄の人気が最も高い。日本人が木に慣れ親しみ、木目のある光景を心地良いと感じているからだろう。木材・木質系の素材は、耐火処理や不燃化を施したものを始め、構造部材にも使える集成材など選択肢が広がり、さまざまな用途で使われるようになった。
 木材に限らず、その土地や地域に当たり前にある、存在自体が自然なテクスチャーやマチエールを持つ素材が、今後もより採用されていくだろう。
 TOTOもマテリアル探究の道を深く進んできており、ものづくりの重要な一翼を担う。例えば陶器では、「セフィオンテクト」のように100万分の1㎜というナノレベルで表面のガラス層を滑らかにし、洗浄性や耐久性を高めた技術もある。
 ローカリティーという点では、「ハイドロソリッド」はイタリアのメーカーと色柄を共同開発した大判の磁器質陶板だが、大理石を模したものではなく、日本の自然や伝統工芸などからデザインのエッセンスを導き出している。セラミックでありながら、和紙や左官を思わせる繊細さや、鉄器や鋳物の表情の力強さなど、懐かしさや温かみを感じさせつつ、全く新しい表情を持ち備えている。
 キッチンや洗面台の天板となる「クリスタルカウンター」では、淡い透明感を持つハイブリッドエポキシ樹脂によって、舞い散る花びらや石の結晶を表現したデザインを実現。無機質な雰囲気になりがちな水まわり空間で、感性を刺激する。

  • 安曇野市庁舎

  • 道の駅ましこ

日本が未来をつくる

 技術の進歩は建築をより自由にしてきた。規模や用途などによる、一律的なモデルに倣うつくり方から離れ、状況に応じた多様性を帯びるようになった。空調設備や照明器具の全くないオフィスでも、丸い平面の美術館でも、木造の超高層ホテルでも、その未来はより自由になっていくだろう。いずれにせよ、根拠となるのはごく単純に、人が心地良くその場に居られるかだ。
 そして、人が自然の一部である以上、自然の環境や素材に魅かれるのは必然だ。20世紀は人と自然を分かつことに建築が使われてきた。しかし、やはり技術の進歩によって、建築という境界を曖昧にしながら、人と自然はより近づいてきている。
 建築が自由になり、限りなく人と自然が近くなった時、建築はどのように、何のために存在するのだろう。そこには人と人が出会うという原初的な理由がある。社会全体の変化によって、今後より多様な人種・性別・年齢の人たちが、ともに住み、学び、働くことが求められる。そのスケールにかかわらず、世界中のコミュニティーに共通する課題だ。
 古来より自然と近い暮らし方をしてきた日本は、親自然的な発想で建築をつくってきた。また、高度な技術やものづくりの叡智に基づいた、課題を克服する力も備えている。
 人の感性に心地良いものでありながら、多様性を受け入れることのできる自由な建築――。建築を問題解決のためのデバイスとして考えたとき、優れた“建築力”を持つ日本であれば、その未来を先導していくことも、決して夢ではない。
 21世紀以降のTOTOはグローバル戦略を積極的に進めている。多様化する世界に対応するべく、例えば、水栓金具は全世界で6000を超えるアイテム数(うち国内は約3680)がある。さまざまな人の生活や嗜好に寄り添うデザインを生み出しているのだ。その中心となる、TOTOのデザイン本部は、2005年のミラノサローネで、特に海外からの評価を定着させるために、デザインフィロソフィー「静かなる存在感」とそれを実現するための五つのデザイン要件「OASIS」を前面に打ち出した。同本部が1957年に組織化されて以降、初の明快なコミットメントだ。世界に対して、ものづくりの姿勢と意識を明確にした。
 そのフィロソフィーにある「さりげなく、使う人の気持ちにそっと寄り添う」。これは未来の建築とも符合していくはずだ。環境と多様性への真摯な取り組みを続け、 TOTOは、次の100年も人と建築とともにある。

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