編集ノート

誰かに何かを頼む

文=伏見唯

今号の取材では、建築家だけでなく建主の話もじっくりとうかがうことができた。そのため、あたり前のことかもしれないが、それぞれの立場を少し原理的に考えてみたくなった。
そもそも、誰かに何かを頼む、とはどういうことか。単に時間がないから他人に頼むということもあるけれども、自分ではできないから他人に頼むということも多い。じょうずに髪を切れないから、美容師や床屋にお願いをするのである。住宅の設計もそういうものだ。自分でも設計できる、という建主はほとんどいない。だからプロに頼む。しかし、それでも自分の家を頼むわけだから、いろいろと希望があり、そうした注文が「与件」のひとつになる。
では、建築家の目から見るとどうか。建主にはできない設計を期待されているのであるから、基本的には任されているといえる。しかし、他人のものをつくるわけだから、その人の希望は、もちろんかなえたいと思うだろう。だから多くの場合、建主の注文を聞くことが住宅設計のスタートであり、両者にとってかけがえのないプロセスなのだ。
そこに難しいポイントがあるとすれば、ある注文に対する解はひとつではないということ。だから「試論」が生まれる。そして、注文に従うことが、必ずしもよい住宅を生み出すとは限らないということだ。合議と質は、ときに相反する。だから思うに、建築家はやさしい紳士でありながら、密かに抗う闘士でなくてはならない。