特集3/独学の建築家

職人の目を通したものづくり

作品/御所西の町家
設計(改修)/森田一弥

大学院修了後、左官の道を歩んだ森田一弥さん。文化財の土壁修理も担い、数々の土や下地を見たうえで設計者になった。その左官のノウハウを各所に生かした「御所西の町家」にて、左官の目を通した建築家の考えを聞いた。

聞き手・まとめ/豊田正弘
写真/川辺明伸

現場を目指す

——学生時代はよく旅をされ、修士課程でも1年間の旅に出たとうかがいました。そこから得られたのはどんなことですか。

森田一弥 学校で学ぶ建築の歴史はヨーロッパが中心ですが、その周辺で何が起こっているのかを知りたいと思っていました。1年間の旅は西ヨーロッパ以外のユーラシアの国々をめぐるもので、原広司さんの『集落への旅』(岩波書店)やバーナード・ルドフスキーの『建築家なしの建築』(鹿島出版会)を持って、本にのった集落を片っ端から見に行きました。その旅で、一生忘れられないほどの個性のある集落や建築をたくさん見ることができました。
 当時はポストモダンの時代で建築家はいろいろな形をつくっていましたが、その根拠がよくわかりませんでした。でも集落の旅に行くと、形と場所の切実な関係が五感を通してはっきりと感じられたのです。

——卒業後に職人を目指されたのはなぜでしょうか。

森田 学生時代、布野修司先生のもとでチベットのラサのフィールドワークで修士論文を書き、形と文化・宗教・気候との関係を考察しました。一方で形と素材・工法との関係についてはまだよくわかりませんでした。そこでものをつくる現場を目指したんです。見るだけでなく、つくる立場の人間として建築を理解してみようと。
 ただ、左官屋に行ったのはほんとに偶然です。文化財の仕事が多くて、土をこね、藁を混ぜてという作業をやりました。
 当時、将来は設計をするつもりがあったのかどうかよく覚えていません。ただ実際に行ってみると、素材と肉体で格闘するような毎日がすごくおもしろかった。


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