特集1/インタビュー

「躯体と窓」
ではない
「躯体の窓」

文/伏見唯

 窓の歴史は、柱間装置の歴史でもある。日本でいえば、柱と柱のあいだが、板壁、土壁によって閉ざされることもあれば、障子や襖などの開閉できる建具が入ることもある。板壁には格子窓が取り付けられたり、土壁には下地窓がうがたれたりすることによって明暗の調整が図られる。仮設的なしつらえを除けば、室内の明暗はほぼ柱間によって行われていた。つまり柱と柱間装置は、いわば並列な関係の建築の根源的な要素であり、柱を「躯体」、柱間装置を「窓」と言い換えれば、「躯体と窓」という状態が一般的だともいえる。その構図をはっきり変えたのはカーテンウォールだが、ほとんどビルに用いられるので開閉しない場合もあり、はたして「窓」と呼んでいいものか。一方、増田信吾さんと 大坪克亘さんが設計した建築では、しっかりどころか大胆に1.5階分のガラス戸が開閉する。柱と柱間装置による「躯体と窓」ではなく、窓が軀体に従属しながらも、窓が表層になり、並列ではなく主従や表裏の関係をもった「躯体の窓」である。
「躯体の窓」は鉄筋コンクリート造2階建ての改修である。もともとは集合住宅の住戸だったが、コンバージョン後の用途は撮影スタジオ。内装は施主が決めているため、増田さんと 大坪さんがおもに担当したのは南側の開口部だった。室内に光をたくさん取り入れたい、という施主の希望に対し、壁面全体を窓で覆うという案で応えた。窓の数ではなく、大きなガラス面の開放で内外の関係性を調整できるあり方は、モダニズムの芯はずしのような、柱間にとらわれずにありたいとする先人たちとも、想いを同じくしている。
 この窓にはほかにも、向かいの家の影によっていつも暗い南庭に、ガラスに反射した光を落とす効果もあり、ガラス面を屋上まで延ばすことによって、壁面とガラスのあいだの暖気を屋上から逃がすドラフト効果も期待しているという。さらに下層の窓の鴨居を2階の手すりとすることで、透過性のあるファサードをきれいに見せるディテールも工夫されている。
 増田さん、 大坪さんは設計の対象を部分に絞ることで、集中できると言った。確かに意匠から歴史、ディテールまで多くのことが考えられていて、窓だけとはいえ、もはや一点突破とはいえない全体性を帯びている。


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