ケーススタディ3

コンクリートの
壁柱を
林立させる

作品/「八幡アパートメンツ」
設計/柳澤潤

柳澤潤さんは、これまで、柱とも壁ともいえない壁柱を用いた構法で、建築をつくりつづけてきた。柱と壁を融合することで、構造と機能の融合を目指しているという。その最新作が、「八幡アパートメンツ」。

取材・文/伊藤公文
写真/川辺明伸

壁柱の出現

 壁構造、または壁式構造という形式がある。建物の自重や地震、風によって加わる外力を柱や梁ではなく壁体(耐力壁)で支える構造のことである。歴史的には石造や煉瓦造のような組積造はみな壁構造なのだから、特別ではなく、むしろ一般的な形式だった。
 ル・コルビュジエはその厚みのある壁を取り払い、垂直の柱と水平の床スラブだけで構成された鉄筋コンクリート造(RC造)をドミノ・システムとして唱導し、近代建築を強烈に推進した。しかし実際には柱と梁をセットとする柱梁構造が普通で、そうなると平面では柱型、断面では梁型の存在が、特に住宅のような小さなスケールの空間では時として鬱陶(うっとう)しくなる。そこにRC壁構造が出現する理由があり、組積造に比べれば壁ははるかに薄く、軽快で融通性に富む形式である。
 ここに取り上げる壁柱構造は、耐力壁である薄い「壁柱」が水平の薄い床スラブを支える形式をいう。壁を耐力壁とする点ではRC壁構造に連なるが、梁を排して上下の床スラブのあいだを完全に開放することを主眼にしている点ではドミノ・システムの精神に通底しているといえる。
 長野県塩尻市の公共施設「えんぱーく」(2010)の設計競技が行われたのが06年。建築家・柳澤潤さんが構造エンジニアの鈴木啓さんと組んで応募し、1等に選出された提案のなかに壁柱構造が初めて現れ、4年後、ほぼ原案どおりに完成した。厚さ20㎝、高さ11.4m、幅は2.5mと1.25mの2種類のプレキャストコンクリート板(PCa板)を組み合わせ、全部で97本の壁柱を構成し、それらが約3000㎡の3層の床を支えている。PCa板の片側には厚さ6㎜の鋼板が貼られている。吹抜けまわりでは、床スラブは壁柱の側面に接するようにしてつながっている。したがって視覚的に壁柱の自立性が顕著で、吹抜けでは高さ11.4mの途切れのない壁柱がそそり立つ。
 壁柱は平面的に直交して配置されているが、決して交わらず、接してもいない。あちこち不規則に、散逸的に配された独立する壁柱は、空間をある程度閉じ、あるいは開く仕切りとしての役割を担い、あたかも耐力を担う役割は放棄してしまっているかのように軽やかに林立している。


>> 柳澤潤さんによる、そのほかの壁柱の実例を見る
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