ケーススタディ02

設計のプロセス

 設計者の藤村龍至さんは「超線形設計プロセス」という設計の方法論を提唱している。これは、いくつもの設計案を何度もゼロから生み出すのではなく、スタディをしながら徐々に最終形態に一歩ずつでも近づいていく、一方通行の「線形」的な設計方法である。具体的には、設計の過程で随時リサーチを挟みながら、既存案に対して批評を加えることで新案をより前進させる、という工程を何案も繰り返すもの。藤村さんは、建築家の設計過程のなかには論理的な飛躍が含まれていることが多いと指摘しており、設計行為を論理的な思考の連続としてあらためてとらえ直そうとしているのだろう。また、この設計方法は、何案もの模型や図面が、初期案から最終案に徐々に変化していく過程を見せる、藤村さん特有のプレゼンテーションにもつながっている。これまで発表してきた建築作品において、藤村さんはこの「超線形設計プロセス」による説明を貫いてきたが、「家の家」においても、例にもれず、この手法を用いている。
 まず、初期案では、敷地形状に合わせた陸屋根の箱型が想定されていた。周囲の家と同様に、駐車場の際まで建物を北側に寄せ、残った南側を庭としている。ただし、この案に対しては、庭が扁平になってしまうなどの理由から、「内部、外部ともに使いきれていない」という、自身による「批評」が加えられ、次案以降に展開されている。解決案として提案されたのが、ひとつの大きな箱型とするのではなく、「メインボリューム」と「サブボリューム」に分けた案で、南東にほぼ正方形の庭を確保できている。このあいだに、建主から部屋を増やしたいという要望があり、さらに「メインボリューム」が調整の結果、ほぼ正方形になっていたことから、内部を動線と室数に対応する田の字型の平面としている。また同時期に、街並みとの調和などのリサーチから、三方に軒を出しながらも、正面性の強い家型の妻面を見せることのできる、片寄棟の屋根を採用している。このように案がどんどん変化していき、この時点でおおよそ現状の平面が出来上がっているのがわかる。
 続いて、細部の調整段階に入ると、設備や動線の配置が整理されるとともに、寸法の整理が行われている。大枠の検討の際に、すでに「メインボリューム」の大きさがおおよそ6000㎜角だったことから、各部の寸法を6000㎜と、それを分割した3000㎜と2000㎜などにまとめている。その結果、やや狭かった庭が広くなることで主室と庭の大きさが同じになり、田の字型も等分割になるなど、形式性を帯びた平面構成が出来上がっている。
 こうした、初期案を変化させながら、最終案にたどり着こうとするプロセスは、無駄を廃した効率主義ともとらえられるかもしれないが、建主や社会に対して雄弁に建築を語ろうとする設計者の信念が現れたものでもあるから、深い思考を避けた怠惰な効率主義とはまったく無縁な、むしろ個を超えたところでの思考の深化への挑戦であろう。


>> 超線形設計プロセスによる設計過程を見る
>> 「家の家」の図面を見る

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