グラン・ホテル・ドミネ スペイン・ビルバオ グラン・ホテル・ドミネ ホームページ へ

 スペインのビルバオは、フランク・O・ゲーリー(*1)設計の「グッゲンハイム美術館」(1997)ですっかり有名になってしまった。街の観光資源として大変なものである。その周辺はすっかり整備されて、気持ちのよいオープンスペースが広がる。
 このホテルは美術館のすぐ前にあって、これ以上の近さはないから客が絶えない。私たちもそうした。
 美術館の前庭に「PUPPY」(子犬)という名の、花が咲く12.4mもの巨大な犬の彫刻(*2)が鎮座しているが、わが家で飼っているウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアという犬種と同じなので、とても親しみがあり巨大ながらも顔がほころぶ。
 グッゲンハイム美術館について述べるのは本稿の趣旨ではないが、同じ設計者のロサンゼルスの「ディズニー・ホール」(2003)やスペイン・エルシエゴのホテル「マルケス・デ・リスカル」(06)などと比べてもずっとよい出来だと思う。展示物も世界最大級の展示室にあるリチャード・セラ(*3)の巨大な彫刻など圧巻で、これを見るだけでも来た甲斐があったとため息が出たくらいなのだ。
 美術館を川沿いに少し進むと、カラトラーバ(*4)設計の歩行者専用橋がある。できてからずいぶんたつのだが、このような構造主義に建築の健全さがみえる。床面の仕上げは、竣工当時ガラスブロックだったようだが、現在はカーペットみたいなものが敷かれてしまっている。
 橋というとビスケー湾に面したビルバオ郊外には不思議なものがある。イバイサバル川の河口付近に、あのエッフェル(*5)の弟子筋のバスク人、アルベルト・デ・パラシオ(*6)が1893年、珍しい運搬橋「ビスカヤ橋」(19世紀末)を設計していまだに使われている。2006年世界遺産に登録された。
 幅164mの川幅いっぱいに、高さ50mの鉄骨が架けられ、そこから10本くらいのワイヤーでゴンドラが吊り下げられて、約50人と最大6台の車をのせてゆっくり動いて対岸まで行き来している。これは建築なのか、乗り物なのか。鉄鋼と造船の街で、大きな船の往来と橋の重要性を両立させたとはいえ不思議な工作物である。
 私たちは上空を徒歩で渡り、ゴンドラで帰ってきたが、板敷きの床はところどころ隙間があり、はるか50m下に水面が見えて足がすくんだ。
 さて、ホテル。145室のなかでスタンダード・ルームではなく、あえて彫刻がそそり立つ中庭に面した部屋を選んで2泊したのだが、柱もあるけれど広くてなかなかおもしろい。ゲーリーの造形を四六時中見なくていいのでやや落ち着くということもある。でもバスルームのドアがスイング・タイプというのが変わっている。なぜだろう。またそのドア枠がステンレスの厚板であったりする。バスルームがガラスでできた部屋もある。
 屋上のペントハウスのようなダイニングルームは開放的。朝、美術館を目の前にして1日のプランを立てる。ビルバオでは不思議なものに出会うので今日も何かあるかもしれない。


*1/Frank Owen Gehry(1929〜):カナダ・トロント出身のアメリカの建築家。チタンパネルなどで複雑な造形の建築を世界中に送り出している。プリツカー賞など受賞多数。コロンビア大学大学院教授。
*2/PUPPY:アメリカの彫刻家Jeff Koons(1955〜)の作品。巨大なキッチュ・イメージの彫刻で知られる。
*3/Richard Serra(1939〜):サンフランシスコ生まれのアメリカの彫刻家。ニューヨークをはじめ、公共の場で巨大な鉄の板を組み合わせた彫刻を世界の諸都市につくる。94年高松宮殿下記念世界文化賞受賞。
*4/Santiago Calatrava Valls(1951〜):バレンシア生まれのスペインの建築家。厳格な構造技術による建築が多い。「ミルウォーキー美術館新館」(01)、「イシオス・ワイナリー」(01)、「アテネ・オリンピック・スタジアム」(04)など。
*5/Gustave Eiffel(1832〜1923):フランスの技師。1889年のパリ万国博のための構造物モニュメントコンペが催され、エッフェルの案が採用された。
*6/Martin Alberto del Palacio Elissague:ビルバオ出身。エッフェルと親交があったといわれる。

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