特集/ケーススタディ

この地で暮らす新しい価値

 褶曲(しゅうきょく)する地形の襞を分け入るように登っていき、急な曲がりをいくつか経た先に「淡路島の家」の敷地がある。北東に向かって突き出た岬状の尾根の上にわずかな平地があり、母屋や納屋などの一群が寄り添うように建てられている。まわりを防風林が囲んでいる。枝葉の隙間からあたりを眺めまわしてみても、人家はほとんど見えない。
 持ち主はあたり一帯の急峻な土地を整え、耕して農業を営んできた。しかし、祖父が亡くなって以降、小規模な農地に野菜を栽培し育てる作業は大正生まれの祖母がほぼひとりで行ってきた。周囲の説得に耳を貸さないまま独居する祖母を案じ、陶芸を生業とする孫娘夫妻が岐阜の多治見を引き払い、同居することになった。
 何よりもまず母屋を改修して住まいとしての場を、次に陶芸の作業場を整備したいと考えた夫妻は、雑誌の情報などを頼りにして建築家の長坂大さんにたどり着いたという。長坂さんが以前の改修プロジェクトで、家屋自体のみを注視するのでなく、周囲の環境との応答や働きかけに深い関心をもっていることにひかれるところがあったようだ。古い農家に手を入れるという具体的な変化の向こうに、自分たちにとってこの地で暮らすことの新たな意義や価値がもたらされることを望んだのである。

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