徹底した検証によるユニバーサルデザイン

 建物全体の設計コンセプトは、シンプルでわかりやすいこと。「サインのデザインも大事ですが、たとえばエレベータ自体がわかりやすい位置にあるなど、構造やレイアウトがシンプルで機能的であれば、サインも必要最小限でいいはず」と北川さん。フロアも3階が出発階、2階が到着階という単純明快な構成で、モノレールの新駅はターミナルビルの3階と直結。改札を出て直進すれば上下移動もひとつの段差もないまま、ものの1分ほどでチェックインカウンターに到着する。
 一方、「空間演出にも力を入れました」と語るのは井上さん。到着階の2階は落ち着いた温かみのある大地のイメージ、出発階の3階は明るく開放的な空のイメージでまとめ、素材や色づかいにも気を配ったとのこと。
 こうした全体のコンセプトは当然ながら、トイレの内部においても貫かれている。バリアフリーやユニバーサルデザイン(以下UD)への配慮に関しては、設計段階から「UD検討委員会」を発足。車いす使用者やさまざまな身体状況の方、有識者、設計者などが集まって検討を重ね、実際にモックアップをつくって検証するワークショップも開業2年前から約40回にわたり、実施してきた。北川さんいわく、「他空港の視察や、機器のモックアップ検証を実施し、何度も議論を重ねてハードとソフト(人的対応)を融合させ、UDのレベルアップを図りました。そのなかでもトイレは最も議論を重ねました」。設計変更が間に合うぎりぎりまで粘って検証を行い、実現にこぎつけた部分も多いという。
 まず一般トイレの第一印象は、なんといっても全体もブース内も余裕の広さがあること。ブースの扉は全開できる折れ戸で、全ブースに跳ね上げ式とL型の手すりを設置。手動車いす使用者なら一般トイレでも十分用が足せる。便器を左右どちらかに片寄せたのは、スーツケースごと入れるようにという配慮だ。
 インテリアの色調は前述の建物全体のテーマカラーに合わせ、2階は茶、1階と3階は青が基調。男女とも室内のカラーリングは同じだが、入り口の壁面の色を赤と青で色分けすることで、入る前に認識しやすくしている。
 次に、多機能トイレを見学した。各トイレに右勝手と左勝手、ふたつの多機能トイレを配置。一見すると広めで機能が充実したトイレという印象だが、おふたりの解説を聞くうちに、並々ならぬ力の入れようが伝わってくる。
 たとえば、扉は自動ではなくあえて手動にし、ドアメーカーと共同で開発した特注品。空港の国際線という場所柄、重度の身体状況の人が介助者なしで利用するとは考えにくい。自動ドアは、ドアに挟まれたり、非常時に開けられなくなったり、介助者が出入りする際にドアが全開されて中が丸見えになるなど、問題も少なくない。そこで、握力の弱い人でも開閉しやすいように扉を軽量化し、途中のどこでも開閉が止められるフリーストップ式の引き戸で、なおかつ施錠もしやすいドアを開発したという。ワークショップ参加者の方からは当初、手動への反対の声もかなり上がったが、手動式の課題を一つひとつ解決し、最終的にモックアップで検証した結果、OKが出たとのこと。
 また、多機能トイレ内で一段と目につくのは、緑色に光る洗浄ボタン。残念ながらTOTO製ではないが、北川さんからは「トイレにはウォシュレットのボタンなど、いろんなボタンがあって、一瞬どれを押せばいいか迷いがちですが、最も利用するのは洗浄ボタン。この光るボタンのように、優先して識別できるものは高評価でした」とのひと言。
 このほか、跳ね上げ手すりも既存のロック式は下部が脚に当たりやすいため、もっと高さを抑えたスリムなタイプを特注でつくったり、非常ボタンの位置も、床に倒れた人が届きやすい位置を検証で確かめるなどして、一つひとつ見直したそうだ。
 なお、このターミナルのトイレでもうひとつ、話題を呼んでいるのが、補助犬専用のトイレ。ターミナル館内に設置されたのは日本初。補助犬と共に行動する人が、少しでも長時間の空の旅がしやすくなるきっかけになれば、と北川さん。

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