特集/インタビュー④

ひとつの造形操作でふたつのおもしろいことを

――合理的だと思うのですが、地面を空中に上げるというアイデアの飛躍がありますね。それがどこから生まれたのかに興味があります。
峯田 この形になった明確な理由は、じつは自分たちでもわかりません。たぶん機能の合理性だけで解いていないからでしょう。この住宅のメインの考えは、現代の環境と、今でも残っている江戸時代の環境をもう一度つなげることで、それは形態操作を通して可能になると思って解いているところがあります。機能の合理性は、優先順位としては2番手ですね。
恩田 いつもまじめにコンテクストを読んでいるつもりなのですが、一見すると変な形になってしまいます(笑)。形態操作という点では、ある問題を解決しようというとき、ひとつのことしか解決していないような操作は本当のデザインではないと思っています。別のおもしろいことが起きないと、形態操作をする意味がありません。
峯田 ひとつの問題に対してひとつの解決を与えることは素人でもできます。自分たちはひとつの造形操作が、ふたつ、3つのメリットを生むようにしたいと思います。そうすることで、とてもスマートな造形になるのではないかと考えています。自然の造形に引かれるのもこうした理由でしょうね。とても理にかなった形をしています。
恩田 自然の摂理も理にかなっていますね。虫がつくときに、害があるからといって一匹ずつつぶしていっても、ほかに害がおよぶようなことが起こってしまいます。そこだけ食べさせることで被害を抑えられることがあり、結果的に無駄も生じません。できれば設計でもひとつの問題や事象だけでなく、総合的な関係を俯瞰して考えたいと思っています。
峯田 そうした意味でも、バナキュラーな建築にはたくさんのアイデアが詰まっていますね。美しい集落は機能も兼ね備えています。この家では環境と対応する装置として、屋根の最頂部に井戸水を散水する仕組みを設けました。散水すると壁面を伝い流れ、第2の地面に植えられた芝の上に落ちて灌水します。ここで30㎜ほどの深さで溜まってオーバーフローすると、軒先から地面に流れ落ちるという、棚田のようなシンプルな仕組みです。
恩田 壁は多孔質の火山灰を配合した塗り壁で、水が染みてゆっくり流れるようになっています。一部に藻が生えてきましたが、洗えば落ちます。
峯田 芝の水分が気化するときの熱を奪う性質を利用し、夏場の涼をとることもねらいました。こうして、適宜水やりを必要とする外皮をまとった建築になっています。リビングで調理用オーブンの付いた薪ストーブを導入しているのも、この住宅では薪が周囲からとれ、ふんだんに使うことができるためです。このように自然の恵みにあやかる仕組みを全体に与えることで、場所とのかかわりを回復するスタンダードな姿が現れるのではないかと考えています。
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