岩本 晶吾

機器水栓生産設計部 福祉商品開発グループ

トイレの介助に、新しい快適さを。
~新型トイレアームレストの開発

トイレの介助に、新しい快適さを。
~新型トイレアームレストの開発

お年寄りや足の不自由な人をサポート。

「トイレアームレスト」という製品を知っているだろうか。
主に老人介護施設などで使われる、トイレの横に付いたはね上げ式の手すりで、お年寄りや足の不自由な人の立ち座りや座った姿勢をサポートする。
福祉関係の製品を数多く開発しているTOTOでは、トイレアームレストを長年製造してきた。ただ、従来品は、アームを支える脚がトイレ前面に大きく張り出しており、車いすで出入りするときや、介助や掃除の際に邪魔になっていた。

このトイレアームレストを改善するプロジェクトが、2011年秋に始まった。
岩本は企画の段階から参加、3人のメンバーのうちで中心的な役割を担った。「今まで、プロジェクトを中心になって進めたことがなかったので、成長の機会を与えられた感じです」。

具体的な形状を考えることから、プロジェクトはスタートしていった。

老人介護施設で得た手応え。

「脚を可動式にする?」「強度上の問題は達成できるだろうか」「じゃあ、こんな形は?」――形状についてメンバーと何回も議論を重ねた。辿り着いたのは「前面に張り出していた脚を後ろだけにする」。一見、単純なようだが、脚を前にした方が、製品自体だけでなく使う人も楽に支えることができる。どうやって強度を担保するかを考えなくてはならない。
また、設置されるトイレ背面の壁には、止水栓などや金具が床から飛び出している。さらに、トイレアームレストは、先に設置してあるトイレに取り付ける場合がほとんど。「便器によって、座面と壁の距離は違いがあります」。様々なトイレ環境がある中で、なるべく全部の製品に取り付けられるように設計することは至難の業だった。

ようやく試作が始まったのは年が明けて2月のことだ。しかし、いけると思ったら、十分な強度が出なかったり。今度は大丈夫と思ったら、設置できないトイレがあったり。試作を繰り返し、製品に近い試作品が完成したのは、5月のことだった。
試作品は、岩本たちの手によって老人介護施設に運ばれ、そこでモニタリングが行われた。
TOTOでは、使いやすさなどをお客様にヒアリングする試みも積極的に行われている。「特に、福祉用品は、私たちでは本当に使いやすいかを検証できません」。お客様へのヒアリングは主に企画が行うが、このように、開発が実施することもある。
試作品への反応は、「何もなくてすっきりした」「掃除しやすい」。岩本の考え通りだ。「嬉しかったですね」。確かな手応えを感じて、岩本は製造のための準備に入った。

100日を超える中国出張。

生産は、中国で行うことが決まっていた。2013年2月の発売を目指していたが、できたものを送って日本で確認・判断していたら時間がない。そのため、岩本が中国に行き、現場で状況を見ながら判断、製造を進めていくことになった。

窓口となるのは、TOTOのグループ会社。経験豊富で技術力も高い「けれど、実際に製造を行う現地メーカーは……」。経験も少ない。また、TOTOが品質に厳しいという認識はあっても、TOTOの求める品質と現地メーカーの考える品質には、まだ大きな開きがあった。
古い機械を使って、自分のやり方で作業する技術者もいた。岩本がそれではダメだといくら言っても直してくれない。何でやってくれないんだろう。岩本は考え込んだ。

しかし、現地に行って話すしかない。2012年の出張日数は、100日を超えた。
お互い言葉が通じないため、絵を描いて意思疎通。「正直、うるさいと思われていたでしょうね」。だが、何度もコミュニケーションを図るうちに、現地の技術者にも自分の技術にプライドを持っていることが分かる。なぜそのやり方ではダメか、どうすれば品質が向上するかをていねいに教えれば、彼らも応えた。「やり方も変えてくれたし、新しい機械も買ってくれました」。品質は、見る見るうちに向上していった。
また、最初、岩本は、何でも自分でやろうとしていた。「ひとりっきりで現地に行くことも多かったですしね」。しかし、現地の技術者は、製造など、岩本が専門でない領域もどんどん質問してくる。当然、分からない。答えられない自分に悩んだ。
「で、あるとき、『教えてもらうしかない』と思って、日本の製造技術者を頼ったんです。そうしたら、たちまち解決して」。それからは、ひとりで業務を抱えず、まわりを巻き込んでいった。品質保証、生産技術……様々な技術者が、岩本の要望に応え、支えた。

人間の尊厳を守る製品。

2013年4月、新型トイレアームレスト発売。
「高齢者施設がメインターゲットなので、普段の生活で目にすることは少ないです」。岩本が見たのもショールームだ。「やっぱり嬉しかったですね」。

初めてメインで担当したプロジェクト。岩本は、たくさんのことを学んだ。「特に、中国で現地メーカーの技術者とコミュニケーションすることで学んだことは大きいですね」。言葉も習慣も違うからこそ、相手の懐に飛び込むことが重要と分かった。「結果、高品質のものづくりを実現できた。同じ技術者同士、いいものつくろうという気持ちになれば、達成できるって実感しました」。
懐に飛び込むのが大事なのは、海外だけではない。自分ひとりでは何もできないことを理解し、できる人に頼む。「それができるようになったと思います」。
TOTOの技術や品質を海外の製造現場に伝えることは、海外生産をするうえで必ず直面する課題。岩本の手がけたトイレアームレストの成功は、大きな実績となった。「現地のメーカーに、TOTOの品質の考え方に共感してもらい、同じ品質の製品を製造できたことは、今後を考えると大きいと思います」。
また、脚が後ろだけという製品は業界初だが、それは、競合優位性以上の価値を持つ。トイレを使いづらかった人が使いやすくなるという本来の機能に加え、脚がないことで、介助する人も足を踏み込んで相手を支えられる。掃除も楽になった。新しい快適を、岩本は世の中に提供したのだ。

「トイレが自由にできなくなるというのは、人間の尊厳に関わること。トイレアームレストは、人間の尊厳を守る製品だと思っています」。そういう製品に関われたことが、岩本には誇らしい。
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