羽田 陽子

総合研究所 商品研究部 健康技術研究グループ(現所属・環境建材事業部 BtoB事業推進部 BtoB開発グループ)

「心地よさ」を、数値化せよ。
~シャワーの浴び心地の研究

「心地よさ」を、数値化せよ。
~シャワーの浴び心地の研究

「好みの違い」を反映できるエアインシャワーを。

シャワーの世界でも、現在のトレンドはエコである。シャワーに、節水、を求めるユーザーは多い。しかし、単純に水の量を減らしたシャワーを浴びても気持ちよくない。
この問題を解決するため、水に空気を含ませ一粒一粒を大粒化、従来のシャワーと比較して約35%(当社比)節水しながら、快適な浴び心地を実現したのが、TOTO「エアインシャワー」である。

エアインシャワーが発売されたのは、2010年。なるべく多くの人が心地いいと感じる浴び心地を、とことん追求して発売された。そして更なる進化として、人による好みの違いに応えられるものをつくることが、次期モデルのミッションとなった。

その前提として、年齢差、男女の違いなど、そもそも人によってどんな好みがあるかを調べ、それを数値化しなければならない。
心地よさという定性的なものを定量化すること――それが、2010年に総合研究所に入所したばかりの羽田の研究テーマとなった。

まずは、マネキンの頭の購入から。

大学で流体力学を研究していた羽田は、教育係の先輩とペアを組むことになった。感性工学専攻で、人の感覚などを専門としている女性である。「学生時代は、水の流れだけを狭く深く研究していました。それが、感性工学と掛け合わされたときに、何が生まれるんだろうって、すごくワクワクしました。学会でも聞いたことがなかったから」。

配属初日、羽田に命じられたのは、マネキンの頭の購入である。
「エアインシャワーは発売されたばかりで、お客様から『空気が入って水の量が減っていても本当にシャンプーを洗い流せるの?』という声が寄せられたんです」。そうしたユーザーの声を聞き、実証・検証してみせるのも、総合研究所の大事な役目だ。「マネキンなんて、買ったことはないですからね(笑)。必死に探して、美容師学校に卸している業者を見つけました。『2体だけ欲しい』っていったら怪しがられました(笑)」。

0から考える難しさ。人に伝える難しさ。

いよいよ研究スタート。作業は次のような方法で進められた。
まず、様々な種類のシャワーを準備する。「世の中には、本当にいろいろな浴び心地のシャワーがあるんですが、その中から10種類をピックアップしました。多すぎると人って感覚が鈍ってしまうんです」。
そして、それを研究所や社内のメンバー30人程に浴びてもらい、感想を聞いた。「人によって感覚は違うので、『痛い』『柔らかい』『くすぐったい』など、いろいろな言葉が出てくるんですが、そのうち、それぞれのシャワーの特色が分かってきます」。

次に仮説立案へ。「なぜ、『痛い』と感じるのかについては、完全にアイデア出しの世界です。ただし、闇雲に検証するのではなく、この要素が効いているんじゃないかというのを、先輩が感性工学の見地から、私が流体力学の見地から意見を出します。そして、その中から確かに関係が深そうだとなったものを、測定・検証していくのです。
例えば、『痛い』という感覚に『シャワーが人に与える力』が関係していそう、ということは容易に想像がつきます。ただ、ひとくちに力といっても、力の平均値なのか、最大値なのか、捉え方は様々です。先輩から『人は力の絶対値ではなくて差を感じる』とか、『人の皮膚の中には『痛い』と感じるセンサがたくさん埋まっていて、頭で浴びるのと胸で浴びるのとではセンサの敏感さが異なる』といった具合にアドバイスを頂いて検討を進めていきました。」。

測定・検証方法から考えるのが、羽田の役目だった。「シャワーの粒の大きさとか、シャワーで人の身体がどのくらい温まるのか、なんてことを測ろうとした人はいないですからね(笑)」。
文字通り0からのスタート。トライ&エラーを何度も繰り返しながら、羽田は測定方法を確立していった。「どんな方法かは社外秘です」。

それだけではない。例えば検証の結果、浴び心地が水の粒の大きさと関係が深かったとする。「『その事実だけでは、営業や開発、お客様に納得してもらえない』と上司に言われました」。
羽田たちの研究は、「研究のための研究」ではない。あくまで、検証結果が、開発を納得させ新製品開発に結びついたり、営業が「確かにこれはお客様に納得してもらえるから、セールスポイントにしよう」と思われるものでなければならない。「『研究以降の、開発や営業の流れを考えた研究を』という上司の言葉は、印象に残っています」。
技術者は数字、営業やお客様は、イラストや動画が納得度が高いはず。あるいは、実際に手で浴びてもらうのが早いかも知れない。水の粒の異なるシャワーでのデモはどうだろう――そこまで考えるのが、羽田の仕事だった。

一般的なシャワーは解明。しかし、研究は続く。

仮説、測定・検証方法の確立、実際の検証作業というサイクルを、ひたすら繰り返した。「ハズレもいっぱいありました」。研究に着手して3年余り、ようやく一般的なシャワーについては、人による好みの違いを解明できるまでになった。
研究の成果を活かした、手元で浴び心地を切り替えられるシャワーも、もうすぐ発売される。「それが出たら、達成感を感じるんでしょうね」。

しかし、研究は終わりではない。世の中には「一般的ではないシャワー」もある。例えばマッサージモードのシャワーだ。これも、お湯が直線的に流れるものから、複雑な動きをするものまである。「他にも、日本ではハンドシャワーが一般的ですが、海外はオーバーヘッドが主流だったり。当然、すべて浴び心地は変わってきます」。

「あしたを、ちがう『まいにちに』。」は、TOTOのコーポレートメッセージである。「上司は、『日本に本当のシャワー文化をつくりたい。風呂が愛されている日本で、シャワーヘッドを取り換えることが、普通になる生活を実現したい』と言っています」。
まず、一般的なシャワーについて、浴び心地の違いを解明した羽田たち。その研究は、TOTOがいつかシャワーヘッドを好みで取り換えて楽しむという、「ちがうまいにち」を実現するための第一歩なのだ。
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