鈴木 健太

セラミック技術研究グループ(現所属・総合研究所 機能水研究グループ)

研究者が、喫煙所で学んだこと。
~半導体製造装置用AD膜製造装置立ち上げ

研究者が、喫煙所で学んだこと。
~半導体製造装置用AD膜製造装置立ち上げ

TOTOの新領域、「AD膜」の製造。

セラミック事業はTOTOの新領域、その中でも「AD膜」は、新しい商材の一つである。
AD膜とは、セラミックコーティング技術であるエアロゾルデポジション法(AD法)を用いて、加熱せずにつくられたセラミック膜のこと。主に、半導体製造装置用の耐プラズマ膜として利用されている。
もともと、1990年代後半からTOTO総合研究所で研究していた技術だったが、なかなか製品化のタイミングがなかった。

しかし、鈴木の入社した2008年ごろから、メーカーから生産の依頼が入るようになり、量産装置の開発が決定する。
鈴木は、高い精度が求められる駆動部分の設計を任された。「大学院でロボット研究をやっていたので、マシンに関わるところで経験を活かすようチャンスをもらった感じです」。半年後装置が完成し、大分県中津工場での製品製造が決まると、量産装置を導入し、製品ラインを立ち上げる役割も鈴木が担うことになった。

最初に感じた「アウェー感」。

鈴木が、現地の製造技術者たちと初めて顔を合わせたときに感じたのは、「アウェー感」だった。
製造技術者は、たたき上げのベテランぞろい。長年、TOTOの高品位なものづくりを手がけてきたという強烈なプライドがある。「『研究者が、品質を維持しながら安定的に供給できる装置をつくれるのか?』と思っていたようです」。

しかし、鈴木にも完成した装置には自信があった。導入のためにしっかり準備したという自負もある。妥協はできないとの想いで、装置の説明は熱を帯びる。「けれど、私の言った通りにやると、実際にはつくれないということが、何度もあって」。なかなか溝は埋まらない。
そんなとき、中津工場へ先に赴任していた先輩研究員が鈴木に声をかけた。「製造技術者の意見を、まずは聞いてみろ。それを受け止めて、咀嚼してからディスカッションすればいい」というアドバイスだった。「研究云々というより、人との付き合い方を教えてもらった感じです」。

「お前、バカだったよなあ」

改めて製造技術者の声に耳を傾けると、彼らが、安定して製造するための装置のあり方や耐久性、どうしたら品質を維持できるかを、想像以上に重視していることが分かった。「それと、つくり手である製造オペレーターのこと」。安定して製造するために、人の手や判断をなるべく介在させない操作を技術者は強く求めた。
鈴木は、現場の技術者の声をもとに装置の改善を加えていく。

変わっていったのは、装置だけではない。
工場の技術者は喫煙者が多い。鈴木はたばこを吸わないが、ある日、喫煙所の中に入った。驚く製造技術者たち。「でも、そうやって懐に入ると、みんな温くて」。自然と仕事以外の話にも花が咲いた。そのうち、家に呼んでもらったり、釣りに連れて行ってもらうようにもなった。
ある日、鈴木は製造技術者の一人に笑顔で言われる。「お前、バカだったよなあ」。「『昔は考えを押し付けてばかりだった』ってことです。そんなこと、親しくないと言わないじゃないですか」。鈴木も、すいません、馬鹿でしたと笑った。着任から、2年近くが経っていた。

24時間3交代のシフトに入る。

しかし、製品化の期限は刻々と迫る。最終的には、製造オペレーターに作業を引き継ぐ時間もなくなり、鈴木は、24時間3交代の製造ラインのシフトに入り、製造オペレーターにトレーニングをしながら、一緒に製品をつくることになった。
製造オペレーターにとっては、初めて触れる装置である。「タッチパネルで数値を入力するにしても、相手に理解してもらえず愕然とすることがたくさんありました。そして、やっと腹に落ちました。『製造技術者のみなさんが言いたかったのは、こういうことなんだ』って」。
鈴木は、作業をしながら、製造オペレーターには最小限の入力や計算になるように、プログラムを変更していった。
お客様にできた製品を確認していただくと、いろいろと改善課題も出されたが、結果は合格。鈴木は製造オペレーターと一緒に、胸をなでおろした。
製品化の目途が立ったため、鈴木は研究所に戻ることに。
「この状態で行くのかよ?」と、製造技術者には笑いながら言われた。「本当にありがとう。いてくれて良かった」と、製造オペレーターには言われた。「少しは力になれたかなって思います」。
今では、半導体製造装置用AD膜は、中津工場の主要な生産品に成長。鈴木は、中津のメンバーと今も公私にわたって連絡を取り合っている。

TOTOの製品は車と同じ。

鈴木が、この経験で得たことは何か。
「赴任直後は、『TOTOのものづくり』を、分かってなかったんだと思います」。TOTOは、家電などよりも製品寿命が長い製品を扱っている。「お客様に、長く愛着を持って使っていただくという意味では、価格帯は違っても車と同じです」。だからこそ品質にはこだわらなければならないし、技術を追求しなければならない。「安定したものがつくれる製品開発が、何より重要だということです」。
現在、鈴木は、機能水の研究開発を手がける。「扱う製品が、生活空間で使うものに変わったので、なおさら『シンプル』『低コスト』『つくりやすい』という観点がないと、そもそも製品になりません」。

そして、つくり手が絶対にいるということ。研究者がラボでつくって終わりではないのだ。研究開発した技術が、製品として世に出るまでには、製造技術者や製造オペレーターはもちろん、様々な部署が関わる。「だから、人との関わり方、人間関係の構築が何より重要ということを、身を持って知りました」。
TOTOで研究開発をしていくために、最も大事なものを鈴木は学んだようだ。
TOTOでは、基礎研究から製品をつくるまでのすべてを手がけることも多い。
しかし、それは、鈴木のような経験を経て初めて実現する。簡単ではない。だが、研究室に閉じこもっていては見えない世界を見せてくれることも確かだ。その経験は、技術者としてはもちろん、人間として、その人を成長させてくれるに違いない。
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