TOTO
中村好文 普通の住宅、普通の別荘
 
10刷
著者=中村好文
写真=雨宮秀也
発行年月=2010年5月
体裁=菊判(220×150mm)、上製、320頁
ISBN=978-4-88706-304-4

ブックデザイン=山口信博+大野あかり

定価=本体2,800円+税
イベントレポート
『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』重版記念講演会
「普通の住宅、普通の別荘」に住まう
出演=中村好文、松家仁之
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美味しい漬け物に憧れるすべての人に
レポーター=佐野由佳

このトークイベント、出版記念ではなく「重版記念」というのがすごい。しかもそれは、人気作家のベストセラー小説でもなく、金儲けのためのハウツー本でもなく、住宅の本なのだから。この事実だけでも、中村好文さんの人気のほどがうかがえる。重版のかかった本のタイトルは『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』。著者の名前が冒頭に入っている。表紙は、中村さんの出世作ともいえる「Mitani Hut」。たそがれ時の畑のなかに、灯りのともる小さな小屋みたいな家がある。寂しくってあたたかい。こういう感じもまた、人気の秘密なんだろうな、ふむふむ、と思いつつイベント会場へ。
トークのお相手は、編集者の松家仁之さんだ。新潮社の『芸術新潮』『考える人』の元編集長であり、中村さんとは編集者として20年来のつきあい。同時に、中村さんに自宅の設計を依頼した、建て主のひとりでもある。

そうなのだ。松家さんに代表されるように、中村さんの住宅の建て主には、はっきりとした特徴がある。ひとつは、男性が多いこと。

会場も8割は男性である。また夫婦の場合も、夫も家に対して積極的なこと。一般的に住宅を建てる主導権は、妻が握っているケースが大半だが、中村住宅の場合はそういうことがないらしい。もうひとつは、おそらくみなインテリであること。このあたりの「建て主の特徴」について、中村さんは「人生を楽しむタイプで、コムズカシイ人はいない。本当の学者はいない。絶対いないのは、大金持ち」と分析して会場の笑いを誘った。
©雨宮秀也

本書は、これまで中村さんが設計した住宅や別荘を、自ら訪ねて建て主にインタビューし、その感想や印象をまとめたもの。写真もまた、竣工写真を載せるのが常の建築専門書とは違って、暮らしの様子を雨宮秀也さんが撮りおろしている。会場では、未掲載のカットも披露した。写真を見ていて気付くのは、どの家も清潔に片付いていることだ。撮影のために片付けたわけではもちろんなく、生活感はあるのに散らかってない。だから見ていて単純に気持ちがいい。中村さんが設計する住宅と、それを紹介する本が人気の理由は、こういうところにあるのではないか。
©雨宮秀也
そこで思うのは、ここでいう「普通の」暮らしは、誰でも手が届きそうに見えて、実はハードルが高いということだ。例えれば、フレンチもイタリアンも懐石料理も一通りわかっている人たちが、「でもやっぱり一番美味いのは漬け物だよね」と言っているようなものだからだ。そしてそんな同好の士に、糠床も野菜も容器さえも吟味した漬け物を、さりげなく提供しているのが中村さんなのだ。だから渡された糠床を、さらに味わいが増すように、維持していく能力も求められる。それを難なくやってのけられる人たちだけが、中村さんの元を訪ねてくる。

そこまではできない、でも美味い漬け物に憧れる、という人はたくさんいる。こんな暮らしができたら気持ちいいだろうなー、なんてため息をつきながら、本書の頁を繰る。だからこうして重版がかかるのだと思う。
佐野由佳 Yuka Sano
1963年静岡県生まれ。85年聖心女子大学卒業、工作社入社。月刊誌『室内』の編集に携わる。2005年からフリーのライターとして活動。建築、家具、住まい、ものづくりの現場などを中心に執筆。
イベント情報
イベント名
『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』重版記念講演会
「普通の住宅、普通の別荘」に住まう
出演
中村好文、松家仁之
日時
2011年2月12日(土) 17:30~19:30
会場
三省堂書店 神保町本店