Vol.23 イライラがなくなるハンドドライヤー? 「乾いた感」と使い勝手をとことん追求した高速両面タイプのクリーンドライ決定版。

Vol.23イライラがなくなるハンドドライヤー? 「乾いた感」と使い勝手をとことん追求した高速両面タイプのクリーンドライ決定版。Text:Yayoi Okazaki Photo:Hiromitsu Uchida

いまやパブリックトイレの標準設備となったハンドドライヤーですが、TOTOでは「クリーンドライ」の愛称で1987年に発売開始。もう30年近い歴史があるのですね。ペーパータオルのようにゴミが出ないし電気代も安い。実はとてもecoな製品なのですが、それを知る人は案外少ないのかも。そこで「クリーンドライ」開発秘話を2回連続でご紹介。まずは、こだわりの「高速両面タイプ」から。2012年2月に登場した最新型は、使う人目線で開発された優れもの。省エネと使い心地を両立させるための秘策とは? 新鮮な驚きがある開発ストーリーをお届けします。

山口 謙悟(やまぐち・けんご)

機器水栓事業部
機器開発部 機電商品開発グループ

2005年TOTO株式会社入社
機器事業部で3年間、食器洗い乾燥機関連開発業務、生産設計業務に従事。
以後、クリーンドライの開発業務、生産設計業務を担当。


Chapter 1

容易に早く乾く「高速両面タイプ」。

容易に早く乾く「高速両面タイプ」。

ハンドドライヤーには2タイプあるのをご存じでしょうか。それが「片面タイプ」と「両面タイプ」。風の吹き出し方の違いですね。いま注目されているのは「高速両面タイプ」。手の表裏両面から高速の風が吹き出すので乾燥時間が短い。上部挿入口から手を差し入れるだけでいいし、およそ3~5秒で乾くのでせっかちな人でも大丈夫。1回の使用時間がごく短いので、積算すると電気代もさほどかからない。ただ「片面タイプ」と比べると、縦長なので場所をとる。だから利用者が多くて広いパブリックトイレにぴったり。逆に「片面タイプ」はコンパクトなので、飲食店やコンビニのような小さな洗面空間に向いている。どちらも一長一短があるわけです。

ただ、いままでの「高速両面タイプ」は、多機能トイレに設置できなかった。車椅子の方や背の低い子どもだと、挿入口から手を入れにくい。簡単で早く乾き、衛生的にも優れた製品だから、高齢者の福祉施設などでも使ってもらいたいのに。それなら、もっとコンパクトにしたらどうか。誰もが使いやすい形にして消費電力も下げる。ecoなクリーンドライの決定版を造ろう。そのプロジェクトを任されたのです。たしかに僕は「乾かす」製品一筋ですが、こんな大きな仕事は初めて。しかも2005年発売の「高速両面タイプ」は、当時の問題点だった「乾燥時間の大幅短縮」を実現した人気製品。それをもっと省電力化すると、構造すべてを変えなければならない。7年ぶり、それも初のフルモデルチェンジで、責任重大どころの話じゃありません。でもどうせやるなら、使う人のイライラもすべてなくしたい。そう決めて、徹底的にユーザーの要望を聞き始めました。その結果を踏まえて開発をスタートしましたが、さっそく大問題が発生したのです。

↑ page top

Chapter 2

コンパクトにするとうるさくなる?

コンパクトにするとうるさくなる?

それは「音」の問題でした。コンパクト化の狙いは、製品の高さを短くすること。前の機種だと車椅子のフットレストが引っ掛かってしまう。でも、単に短くするだけだと、ファンモーターの回る音が大きく聞こえる。音の発生元が近くなるので仕方がないとはいえ、いまよりうるさくなるのは困る。「静音性」を求めるユーザーも多いからです。そこで手の甲側用と手のひら側用、2つあったファンモーターを1つにしよう。コンパクトになるし、うまくいけば省エネと騒音どちらも解決します。ただ風量は少なくなる。乾燥性能を従来どおり維持できるのか。それが不安でした。鍵を握るのは、吹き出しノズル(風が出る穴)の形状。手にどのような風の当て方をすれば効率的なのか。徹底検証することになりました。


  • 「両面高速タイプ」クリーンドライの新旧比較。右の新型(今回の主役)は背も低くなり、コンパクト化されたのがよくわかる。

  • ハンドドライヤーの心臓部・ファンモーター。いままで2つだったものを1つにする。それは風量が減るというリスクも背負った大きな決断だった。

↑ page top

Chapter 3

「乾いた感」の分析で道が開けた。

「乾いた感」の分析で道が開けた。

ところが「手の乾かし方」をどうするか。実験に都合の良い乾かし方だと意味がありません。そこで100人アンケートを実施。手を洗って乾かすまで、あなたはどう行動しますかと。すると、ほとんどの人が手を2回振って水を切る。無意識なのになぜかみんな2回(笑)。またモニターさんにもこだわりました。手の厚み、大きさで乾く早さが違うので、男女いろいろな手の人に声をかけて。僕も参加しましたよ。最も乾きにくいのは、大きくて肉厚、毛が生えてみずみずしい手。その条件に僕は全部当てはまる(笑)。まさにハンドドライヤー開発向け、規格外の手なんです。そこまで準備して、ようやく検証実験を開始しました。

濡らした手を2度ふってから乾かす。その手を押し当てたキムタオル(毛羽の出ない特殊なペーパータオル※注)の重さを精密に測定する。それもノズルの形状をさまざまに変えた試作品10何種類でこれを繰り返す。データを取るだけでも一苦労でした。特に大変だったのは、「乾いた感」の検証。ハンカチで手をふいたのと同等の「乾いた感」は、手がどの状態になれば得られるのか。もちろん手に残った水滴の重さで、乾燥性能の優劣は数字でちゃんと出ます。でも数字と人の感覚は異なるかもしれない。「乾いた感」の裏付けが必要でした。毎日が実験とヒアリング、分析の繰り返し。大量のデータとの格闘でしたが、その結果意外なことがわかったんです。

※注 キムタオルは日本製紙クレシア株式会社の登録商標です。


  • 実験室で乾燥実験を再現してくれた山口さん。まずは水を入れたバケツに手を入れる。

  • 次にぬれた手を2回振ってから試作品で手を乾かす。どの行動も秒単位で時間が決められている。

  • キムタオルで手を拭き、残った水滴の重さを測る。正確な計測のため段ボールでの風防も必須。

それは、手のひらが乾けば「乾いた感」があるということ。ならば、手のひら側に大きめのノズルを多く配置すればいい。すると、より強い風を手のひら側に当てることができる。そのうえで「乾いた感」が最速で得られるよう、穴の大きさ、角度、ピッチを工夫し続けました。しかし手のひら側の風量を増やすと、上部への吹き返しがきつくなり、水滴が飛散するという新たな問題も発生。そこで風の流れを解析して、乾燥室内で水滴を回収し空気だけを横に抜く新たな構造を開発。これで髪が乱れるという苦情にも対処できる。それを証明するために、女性用ロングヘアーのカツラで実演までしましたよ(笑)。実際に見てもらわないと、社内でも納得してもらえない。また手の挿入口を広くして、手首の時計が邪魔にならず、すっと手を差し入れられるような改善も。すべて試行錯誤の連続。苦労はしましたが、使う人のイライラをすべて解消した「両面高速タイプ」がようやく完成したのです。


  • 手の甲側はやや小さめのノズルを配置。

  • 手のひら側は大きめのノズルを配置。

  • 金髪のカツラでの実演を再現する山口さん。

この技術を搭載している商品は・・

経済的でエコロジー
クリーンドライ商品詳細を見る

↑ page top

Chapter 4

洗面空間の快適さにも貢献したい。

洗面空間の快適さにも貢献したい。

この最新型は、従来比で約20%、13cm背丈が低くなりました。床から30cm以上の余裕が生まれたので、車椅子のフットレストが下に入る。低く設置すれば子どもでも楽に手を入れられる。業界最高水準のコンパクト形状で、誰もが使いやすい製品になりました。約10%の省エネにも成功し、乾燥性能も従来どおり。ごくシンプルなデザインなので、空間がすっきり見える効果も。またコンパクト化で、新たな利点も生まれました。それは、洗面ボールの横に高さを揃えて設置できること。手を洗ってすぐに乾かせるので、洗面所の床が水で濡れずにすむ。いままでの「高速両面タイプ」は、離れた場所にあるのが当たり前でしたからね。より良いクリーンドライを追求することは、手洗い空間の快適性向上にもつながる。それがわかったのも僕にとって大きな収穫。次の開発への大きな励みになりました。(次回に続く)


専用カウンターと組み合わせると洗面空間がこんなにすっきり。気になる水垂れがなくなって快適な上、洗面所の床も常にきれいな状態に。


手の挿入口が広くなったので、腕時計をした肉厚な山口さんの手でもすっと奥まで入れることができる。

↑ page top

編集後記

編集後記

これまで、さまざまな「○○感」が登場しましたが、今回は「乾いた感」。これは新鮮でした。それもそのはず、山口さんはTOTOにおける「乾燥のプロ」。クリーンドライをメインに、食器洗い乾燥機や浴室暖房乾燥機の開発にも関わっていたのです。今回は4年ほど前の開発秘話なので、原理モデル等は既に廃棄。「お見せするものが何もなくて」と恐縮されていましたが、実験室に行くと金髪のカツラとキムタオル(※注)入り段ボールが! 過酷な検証実験の痕跡発見で、山口さんもしみじみムード。しかし単なる穴(吹き出しノズル)に、ここまでこだわりがあったとは。そういえば、このクリーンドライが並んだ洗面所を偶然利用しましたが、本当に使いやすい。水滴をぽたぽた垂らして乾かしに行くのが地味にストレスだったことに気付きました。乾きも早くてストレスゼロ。本当にイライラをなくした製品だなと実感しました。


「自分で買ってきたカツラです」と明るい山口さん。念のためロングと巻き髪の2種を用意。女性の髪の乱れまで配慮した開発者魂はまさにあっぱれ!


段ボール箱に大切そうに仕舞ってあるキムタオル。再利用も可能なので、1度使ったものも保管してあるとか。次の開発にもきっと大活躍するのでしょう。

↑ page top

今回のストーリについて、感想をお聞かせください。

その他のストーリー


Enquete

グリーンストーリーについてお聞きします。

グリーンストーリーについてお聞きします。

↑ page top

GREEN STORY TOPに戻る