Vol.20 節水しながら詰まりも解消するスタイリッシュで革新的な新・小便器誕生!

Vol.20節水しながら詰まりも解消するスタイリッシュで革新的な新・小便器誕生!Text:Yayoi Okazaki Photo:Hiromitsu Uchida

小便器のいちばんの問題点は詰まりやすいこと。メンテナンスもとても大変だそうです。だからその頻度を少しでも下げたい。節水ももちろん進めたい。ただし洗浄水を減らすとどうしても詰まりやすくなる… その相反する難題に取り組んだのが、入社5年目の若きエース。大胆な発想転換で次世代を担う新・小便器を誕生させたのです。この画期的でスタイリッシュな「US一体形小便器」は、デリケートな男心にも配慮しているとか。今回はディープな小便器開発ストーリーをお届けします。

松中 仁志(まつなか・さとし)

衛陶開発部
衛陶開発第二グループ

2010年 TOTO株式会社入社
以来、主に小便器開発業務に従事。


Chapter 1

いちばんの若手に重要ミッション?

いちばんの若手に重要ミッション?


従来型(右)と比べると新・小便器(左)はスタイリッシュでスリム。

小便器って液体しか流さないから詰まりにくい。そう思われがちですが、実は大便器より詰まりやすいんですよね。紙とかが一緒に流れる大便器と違って、トラップ(水溜まり)や排水管内に「尿石」という堆積物ができやすい。これはもう小便器の宿命です。だから利用者が多い駅などの公共施設では大問題。1年に1度は便器と排水管を徹底的に掃除しなければなりません。そのメンテナンスが手間もお金もかかる。どうにか頻度を少なくできないものか。そんなお客様の声が多く寄せられ、長年の課題でもありました。

もちろんTOTOでも知恵を絞ってきました。画期的だったのが1970年代に発売されたセンサー式。それまでは押しボタンで洗浄水を流していたので、面倒がって押さない人も多かった。それが自動で済むから詰まりも軽減。節水面でも4L→2.8L→1.6Lと着実にecoな小便器へと進化しています。また現在では、尿石が出来にくくなるように、原因となる菌の活動を抑制する特殊な洗浄水<ジアテクト>を定期的に流している。じゃ何が問題なのか? 実はこのジアテクトに結構な量の水を使う。洗浄水自体は少なくなっても、節水便器としては不満が残る。そこで僕に指令が下された。全体的に使用する水量をさらに減らして、詰まらない便器を造れと。小便器ひとすじとはいえ、僕はチームでいちばん若いのに(笑)。無我夢中でスタートしましたが、やがて途方もない難題だと頭を抱えました。どんなに工夫しても、節水するほど詰まりやすくなる。目標は洗浄水を1.2Lまで減らすこと。当時の機種が1.6L洗浄だったので0.4L減らすだけですが、このわずか0.4Lに苦しみましたね。

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Chapter 2

見えない水の流れを徹底的に追及。

見えない水の流れを徹底的に追及。

そこで根本的に小便器の構造を変えようと決意。最初に目を付けたのがトラップです。「清掃しやすさ」を考えて、従来はトラップを大きめに設計していました。でもその配慮って本当に必要? そう思い清掃業者さんに聞き取り調査をしてみることに。すると、今は便器を取り外して直接高圧洗浄する。昔のように小便器からワイヤーを突っ込むわけじゃないので、トラップを小型化しても問題ないことがわかった。だったら洗浄水を減らせる。そのうえで少ない水量でも尿が残らないようにトラップの形を工夫すればいい。それが新しく開発した「節水トラップ」です。小便器内の「水の流れ」を極力シンプルにすることで、トラップ内汚水をほぼ丸ごと置換することに成功。でもこれだけじゃダメ。排水管の中が残っています。じゃ実験室ではなく、実際に使用している小便器で排水管内の水の動きを徹底的に調べてみよう。社内でも前例のないアプローチでしたが、これもジアテクトに替わる対策を見つけたい一心から。もう必死でした。


  • 新開発の節水トラップ。シンプルな形なので従来よりも少ない洗浄水量でも効率的に尿や菌が流れ去っていく。きれいが長持ちすることに貢献。

  • 小便器を裏から見ると従来のトラップ(右)に比べて節水トラップ(左)はかなり小さくなったことがよくわかる。


上流(左側)に汚水が逆流することがわかる透明排水管。菌が尿石を作らないよう最適な間隔で排水管を洗浄するシステムを構築した。

そこでトイレに設置した透明排水管を見ながら、汚水の流れを何度も検証。もう1日中トイレにこもりきりです(笑)。すると洗浄直後に尿の一部が上流側に逆流し、高濃度のまま排水管内に残っていることがわかりました。それは洗浄水を少々増やしても同じ。要は効果的に尿を流せていなかった。じゃどうすれば少ない水でも効率的に滞留した尿を流せるのか。そもそも菌が尿石を作るタイミングとは? トイレの中で尿石の生育状態まで研究するなど、本当に難題ばかり。そしてようやく完成させたのが「インターバル排水管洗浄」です。菌の活動メカニズムに合わせて自動洗浄を設定することで、排水管内をいつもキレイな状態に保つことができる。その結果、洗浄水量約0.9Lという新・小便器が完成。2つの新技術「尿を残さない節水トラップ」と「菌を活動させないインターバル排水管洗浄」は効果絶大だったのです。

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Chapter 3

繊細な男心への配慮も万全。

繊細な男心への配慮も万全。


小便器内が深くえぐれたデザインで尿はねを解消した。

目標を大幅にクリアできた節水以外にも、苦労した点は多々あります。主に男性ならではの問題点ですが(笑)。この新商品はスリムで背も低い。形もスタイリッシュでしょ。これなら小便器上に棚が作れるし開放感もある。空間にゆとりが生まれます。でも男性にとっては気になる点も。それはスリムな小便器だと、自分の飛沫を浴びるんじゃないかと(笑)。そこで小便器の内側に「えぐれ」を作り、おしっこの軌跡をたたき落とすようにしました。「放尿装置」(実験道具)を使い、あらゆる角度で検証済みだから安心。また「隣の人から見えるんじゃないか」という不安に対しては、試作品を実際使ってもらうことで解決。スリムだからこそ従来品よりぐっと近付ける。だから見えない。それも事前にしっかり計測して検証済み。男心って案外デリケートなんですよね。その気持ちは僕にもわかるので、快適な使い心地にもこだわりました。


従来型(右)はセンサーとスプレッダーが分かれている。

ただ今回センサー精度を良くするために、超小型センサーをスプレッダー(洗浄水の出口)に組み込みましたが、それが大きな問題に。従来の小便器だとスプレッダーは奥まった場所にあったのが今回は丸見え。だから洗浄水のしずくが従来品のように、最後にポタポタと落ちることは絶対許されない。「トイレの水が手にかかった」と怒られてしまう(笑)。汚くはないけれど、男って小便器の水には一切触れたくないんです。おかげでハードルが高くなって大変。またそのセンサー&スプレッダーの設置場所にもひと苦労。男は的があると当てたくなる習性なので(笑)、日本人99%以上の人の股下より高い、つまり狙われないギリギリの高さを追求しました。最後まで本当に気の抜けない開発でしたね。


  • 新・小便器は自社開発した超小型センサーとスプレッダーを合体。

  • 超小型センサー&スプレッダー合体は小便器のサイズダウンにも貢献。

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Chapter 4

マイナーな存在でも仕事はデカイ。

マイナーな存在でも仕事はデカイ。


小便器開発用実験ブースもごく小さいがここから大きな成果が生まれた。

ただ、いまになって思うのは、こんな大きな仕事を入社5年目の若造によくまかせてくれたなと。国内で7割を占めるTOTO小便器、それも13年ぶりのフルモデルチェンジ。小便器開発は何千人の社員のなかでほんの10人程度。マイナーな存在です。でもだからこそ「俺達しか知らない世界」で団結心も強い。大仕事にも僕のような若手が関われた。4月に発売されれば、パブリックの小便器はこの新商品が主流になるはず。東京オリンピックの頃には間違いなく普及していると思います。無骨な前機種に比べるとスタイリッシュだから、使う人は絶対「おおっ」と思うでしょうね。そう考えると感謝の気持ちでいっぱいです。「一子相伝」的な部署なので、僕はこれからも小便器の世界で生きていく。だから将来息子が生まれたらいいな。これはお父さんが造ったのだよと教えたい。それがささやかな僕の夢かもしれません。

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編集後記


小便器開発ひとすじに誇りを持つ松中さん。笑顔も実に爽やかでした!

女性にとって「小便器」は未知の世界です。まじまじと現物を眺めたのも、今回の取材が初めて。だから松中さんのお話は驚きの連続でした。単純な構造に思える小便器の世界でも、ここまでecoが進んでいるとは! そして「男心」の話で場は一挙になごみムードに。男性陣は揃って「そうそう」と賛同していましたっけ。想像以上に男性はキレイ好きでデリケートなのかも。また「やはりスターは大便器ですから」と謙遜しつつも「男性は小便器の方が使い勝手がいいんです」とキリッとおっしゃったことも印象的。開発者の誇りと心意気がお見事でした。残念ながら、私は新・小便器を使う機会はありませんが、男性の方はぜひ注目を! 本当にすっきりスタイリッシュで使い勝手も良さそうですよ。腰痛持ちが多い施工業者さんに「軽くなったと喜んでもらいたい」という言葉も、お人柄がにじみ出ていました。

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