Vol.19 不良品削減に本気で取り組んだ原材料「調製」のマニアックストーリー。

Vol.19不良品削減に本気で取り組んだ原材料「調製」のマニアックストーリー。Text:Yayoi Okazaki Photo:Hiromitsu Uchida

便器の原材料「泥しょう」(でいしょう)。天然の石や土をブレンドして水と撹拌したもので、単なる泥とは大違い。実はこの「泥しょう」が便器の出来栄えを大きく左右するのだとか。それだけに担当者たちの責任は重大。最高の原材料、最適な配合を日夜追い求め、我が子のように「泥しょう」を見守り問題点を検証する。そんな彼らの使命は不良品を減らすこと。また不良品もなんとか世の中に役立てたい。そんな熱い思いと努力の成果で、いまや衛陶工場は3R、リデュース(ゴミを減らす)、リユース(繰り返し使う)、リサイクル(資源として再利用する)の模範的存在に。今回は知られざる「調製」の壮大な裏方ストーリーです。

荒川 高親(あらかわ・たかちか)

TOTOサニテクノ
中津衛陶製造部 試験調製課課長

1989年 東陶機器株式会社入社
便器成形に9年、調製に3年携わる。
2002年 衛陶材料技術グループへ異動。
原材料全般の統括、海外拠点の立ち上げに従事。
2009年 中津衛陶工場で原材料試験調製業務に従事。


Chapter 1

真の裏方「調製」の仕事とは?

真の裏方「調製」の仕事とは?

僕の「調製」という仕事は本当の裏方。一言でいえば原材料関連。石や土を海外から調達し、それに水を混ぜて撹拌し、便器などの成形に最適な状態の素地、つまり「泥しょう」を造るところまで。社内でもどんな仕事か知らない人がほとんどでしょうね。僕は入社当時、成形現場にいたので「泥しょう」には毎日触っていた。でもその辺の土を水で混ぜただけじゃないのかと(笑)。いま思えば、とんでもない誤解。見た目は単なる泥に見えても、20種類もの原材料をブレンドした特製品。それも混ぜたら出来上がりってわけじゃない。ものすごく気を使い大事に扱っています。というのも、「泥しょう」は製品の品質を左右する、とても大事な存在。良い「泥しょう」じゃないと、ひび割れなどの不良品が多く出てしまう。裏方ではあるけれど、責任重大な仕事なんです。

難しいのは、「泥しょう」の良し悪しは見ただけじゃ絶対わからないこと。成形して焼き上がるまで約2週間。良品率がどのくらいか。その結果の数字で判断するしかない。だから何が問題点なのか、発見すること自体がとても大変です。たとえば、成形の仕事だともっとわかりやすい。「ま、いいかー」と流すと絶対あとでそれがロスになる。手作業も多いから、自分に厳しくなるし反省もする。でも「泥しょう」の場合、良し悪しの実感がないのに工場全体の良品率に確実に響く。TOTOの製品は全数検査ですからね。ほんのちょっとのゆがみ、ひび割れなどを絶対見逃さない。本当に厳しい。でもそれが社員の誇りでもあるんです。それにまだ成形の段階なら失敗してもまた再利用できる。独自のノウハウがありますからね。けれど焼き上がってしまうと不良品はただのゴミ。業者に産業廃棄物としてお金を払って引き取ってもらうしかない。もったいないなと思っていました。


  • 製品の素地はとてもデリケート。細心の気配りが必要だ。

  • 焼成前の不良品なら工場内でリユースすることができる。

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Chapter 2

「泥しょう」を我が子のように愛おしむ。

「泥しょう」を我が子のように愛おしむ。

この不良品を細かく砕いたものが「セルベン」(陶器屑)。これをなんとか再利用できないか。その模索は10数年前に既にスタートしていました。「泥しょう」に混ぜて使う試みでした。でもうまくいかない。逆に不良品が増えてしまう。それじゃ意味がないし本末転倒。そこで再利用を中止して、良い「泥しょう」で良い製品を造る。それで不良品をできるだけ少なくしよう。その原点に立ち返りました。まず海外の鉱山からより良質な原材料を調達する。実際現地で見て納得できるものだけを買い付ける。まさに勘と経験の世界です。でもいくら吟味しても品質にはばらつきがある。それが天然素材ならではの難しさですね。その欠点を克服するのがブレンド。もともと素材も15種類だったのが20種類まで増加。多くなるほど品質が安定するからです。その配合も毎週2~3度は見直して微調整。粉砕もミリ単位で均一になるように工夫する。少しでも良質な「泥しょう」を製造部門に届けたい。そのための努力は惜しみません。面倒でもひと手間必ずかけるんです。


  • 厳しい検査で不合格となった不良品。素人目には問題なく見えるが…

  • 焼成後の不良品がセルベン。この再利用がとてもやっかいだった。

さらに2009年からは、より積極的な良品率向上プロジェクトを開始。折れ線グラフをにらみつつ、徹底的に問題点を洗い出しました。たとえば、なぜかある時期だけ素地不良が多発。そこで温度を疑ってみる。夏なら一晩中ボールミル(粉砕機)に水を掛けてみてはどうか。上司にお願いして、ボールミル1本だけどうにか試してみる。すると2週間後に良品率が上がる。ならば冬はボールミルに布団を巻いてみる。これすべて手作業ですよ(笑)。そんな地道な繰り返し。本当に手探り状態でした。でもその成果は着実に出ました。徐々に良品率が右肩上がりで高くなり、いまも過去最高記録を更新中。僕がいる中津工場では、毎月300トン発生していた不良品が60トンまで減少。これも300以上あった問題点の70%以上を5年間で検証して解決した結果です。


  • 取材時は寒かったのでボールミル(粉砕機)には布団が巻いてあった。

  • このようなボールで石や土を均等な大きさに粉砕する。

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Chapter 3

不良品も有効活用してあげたい。

不良品も有効活用してあげたい。


営業用に作ったセルベンの見本。さまざまな形状で再資源化を提案した。

ただずっと気になっていたのが不良品を積み上げた山。見るたびに胸が痛みました。でも社内での再利用はやはり難しい。ならば社外でリサイクル資源として活用してもらえないか。その方法を探るため、セルベンのサンプルを持って営業することに。いわゆる鞄営業で「ちょっと試験してもらえませんか」という感じ(笑)。用途としては主に2つ。耐火物としての利用と建築資材としての利用。もともと不良品といっても、その素材は釉薬も含めて石と土。すべて貴重な天然素材で、有害物質も一切含まれていません。だから捨てるなんて本来あり得ない。会社も本格的なセルベン粉砕機器を導入してくれたし、ちゃんと各方面で使ってもらえるようになり、ようやくホッとしました。特にecoだなと感じた用途は、環境型土系舗装ですね。照り返しによる温度上昇を抑えるからヒートアイランド現象を抑制。また雨水の浸透性が良く、有害物質を含まないから地下水の安全性も守る。僕たちの「泥しょう」の行く末としては理想的(笑)。2012年に開通した地元・北九州市の若戸トンネルにもセルベンのリサイクル資材が使われた。うれしいニュースでしたね。


  • 粉末状にしたセルベン。いまではゴミどころか貴重な資源に。

  • 中津工場の歩道にもセルベンを利用した環境型土系舗装が活躍中。

そういえば「調製」への異動当初こそ「なんで僕が?」と思いましたが、いまはこの仕事で良かったなと。だって便器は焼き物ですよ。こんな複雑な形の焼き物を大量生産する。そんな産業は他にないですよね。その土台を支える仕事だという誇りが持てました。これも試行錯誤を続けてきた先輩方や仲間のおかげ。努力すれば必ず数字で結果が出るのも達成感があります。ただ、いまでも「泥」と言われると、思わずむっとする(笑)。僕にとってはこの先もずっと、たかが「泥しょう」されど「泥しょう」なんですね。

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編集後記

編集後記


サイロ型原材料保管庫の前で。荒川さんが語る裏方話は「男のロマン」そのもの。壮大なスケールに驚きっぱなしでした。

うーん、なんともマニアック。でもそのお話のスケールの大きさにはびっくり。ベトナム工場立ち上げの際は、密林の中の鉱山まで原料を探しにいったとか。いまは分析器があるけれど、かつては舐めて質を確認する先輩も。一言で「良い泥しょう造り」といっても、そんな苦労まであるとは! もともとパソコン好きの荒川さんは、石や土と向き合う「調製」の仕事は自分には不向きだと異動当初思っていたそうです。それがいまでは「悔いなし」とおっしゃるのだから素晴らしい。年に何回かTOTOの4衛陶工場「調製」の集まりがあり、その席上でも「荒川理論」はとても有名だそうです。しかも2日に1回は部下と面談。親身な上司としても知られているんですね。裏方だからこそ手を抜いてはいけない。不良品も最後まで面倒をみなければ。そんな男気あふれる荒川さんのお話は、まるで頑固職人の「麺造りの極意」を伺っているよう。リサイクル話も「泥しょう」への愛ゆえにという気持ちが伝わってきて、とてもリアルでした。

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