Vol.17 世界初の「フラッシュタンク式」便器は驚くほど進化した高性能タンクに注目!

Vol.17凄腕開発者が挑んだ究極のパブリックトイレ。世界初の「フラッシュタンク式」便器は驚くほど進化した高性能タンクに注目!Text:Yayoi Okazaki Photo:Hiromitsu Uchida

いわゆるパブリックトイレには、フラッシュバルブ式とタンク式があるのをご存じでしょうか? フラッシュバルブ式は連続使用が可能で、タンク式は節水性が高い。その2つの長所を兼ね備えた最新鋭便器がついに完成。それが、この10月に発売されたパブリックコンパクト便器「フラッシュタンク式」です。TOTOが「パブリックトイレの新定番」と自負するだけあり、節水はもちろん使い勝手も抜群! ただそのためには、タンクの大幅な進化が必要不可欠でした。水の勢いをどう制御するか? パブリックならではの課題とは? 究極のタンク開発に挑んだストーリーです。

中村 健一(なかむら・けんいち)

衛陶生産本部 衛陶開発部
衛陶開発第二グループ

1996年 TOTO株式会社入社
入社後14年間、主に大便器開発業務を担当。
2010年 TOTO U.S.A開発部へ異動。
2013年 衛陶開発に復帰。パブリック向け商品開発に従事。


Chapter 1

「便器屋」がなぜタンク開発?

「便器屋」がなぜタンク開発?


「このタンク内の部品も全部設計し直しました」と中村さん。

僕は入社以来ずっと大便器の開発をしてきました。最新型節水便器のトルネード洗浄開発にも携わった、自称「便器屋」(笑)。なのに、アメリカ出向から帰ってきたら、いきなり「パブリックトイレ」、それも「タンク」開発をやってくれ。そう上司に指名され、正直「なんで俺が?」と思いましたね。ただ話を聞いていくうちに、おもしろそうだなと。まったく新しい次世代タンクを造る、それも一から始める大プロジェクトです。いままで「便器屋」としていろんなことにチャレンジしてきましたが、タンクをいじることはあまり考えてなかった。たしかにタンクの性能が良くなれば、節水効果がさらにあがるだろうし、便器側の開発も楽になる(笑)。そう考えて、新プロジェクトに取り組む決心をしました。でもこれが、想像を絶する難問続きだったのです。

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Chapter 2

極限まで小さなタンクを目指せ!

極限まで小さなタンクを目指せ!


サイズダウンしたタンクの透明モデル。非常に精巧にできている。

僕たちが目指したのは、フラッシュバルブ式とタンク式の「いいとこどり」。水道直結の「フラッシュバルブ式」は、連続使用できるしコンパクトだけど、施工がかなり大変。一方、家庭でもおなじみの「タンク式」は、節水性に優れていて施工も簡単。ただしタンクに水が溜まるまで、約60秒待たなければならない。だから大勢の人が次々に使用する施設には向かない。そこで考えたのが、極限まで小さいタンクを造ること。すると貯水時間が短くなり連続使用が可能になる。しかも空間にゆとりが生まれるし、狭いトイレでも使いやすくなる。特にフラッシュバルブ式だったトイレにもリモデルできるようにすれば、節水にも大きく貢献できる。いわばパブリックトイレの新定番を造ろうと考えたのです。

ただ、タンクのサイズダウンは簡単じゃない。従来は、重力で水に勢いをつけて洗浄していたから、水を溜めるタンクに高さと容量が必要になる。だけど今回目指したタンクの高さは、通常タンクの約3分の1。となると、重力ではなく別の方法で水に勢いをつけなければならない。またタンク内の貯水量を3Lと想定していたので、洗浄に必要な4.8Lには足らない。だから、洗浄の際に給水管からすばやく足りない分の水を供給する必要がある。実は、これらを解決する決め手が「ジェットポンプ」。水を増幅させる画期的な技術です。給水管からの水をタンク内の太い管のなかにすばやく噴出させながら、タンク内の水をも巻き込むことで、約4倍の量の水流に増幅加速して便器に洗浄水を供給できる。でも、その勢いのままだと、節水効率が悪い。この水の「勢い」をどう制御するか。これが大きな難題でした。しかも今回は作動すべてに電気を使わないことが大前提。「ジェットポンプ」、それも電源レスで水流を制御するトイレ用タンクなんて、世界初ですよ。それだけにものすごく解決案に悩みました。


  • 新旧モデルを並べてみると右の新型タンクの小ささがよくわかる。

  • ジェットポンプの要となるタンク内の太い管。

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Chapter 3

エアを使うが故の困難に四苦八苦。

エアを使うが故の困難に四苦八苦。

そこで、水を制御するために考えついたのが、ジェットポンプにエアを混入させること。でも本音でいえば、エアはなるべく使いたくなかった。洗浄の際、水の勢いを100%生かし切ることができないから。だから、エアを抜いて、今度は入れて・・・と、エアの混入量や入れるタイミングの決定が本当に難しかった。わずか6~7秒の間に、どのタイミングで必要な量だけ水を供給して、節水効率を上げられるか。まさに空気との戦いでしたね。1年半で成果を出すという時間の制約に追い詰められながら、試作品を30以上も造ってはその都度エアを調整し・・・と、ありとあらゆる試行錯誤と実験の繰り返し。これらのカギを握っていたのがエアの「吸気孔」なのですが、性能はクリアしても、もっと良くなる可能性を追求、また追求ともうヘトヘトになるまでやり抜きましたね。部品もすべて新たに設計し、小型化してより精密に作り込みましたから。でもこの「ジェットポンプ&エア」を使ったタンクは画期的な発明になりました。たとえば、「フラッシュバルブ式」特有の、洗浄後にちょろちょろって流れる水。これって節水の大敵なんですが、そのちょろちょろ水がスパッと切れる。当然、洗浄音もスパッと消える。しかもタンク貯水水量も少なくすることで約20秒で次の洗浄ができるので連続使用も可能に。便器でいえば、洗浄水流を水平に変更したトルネード洗浄級の発明。TOTOのトイレの歴史の中でも大革命となりましたね。


  • これが悪戦苦闘した「吸気孔」。今回の開発で一番の発明となった。

  • 数えきれないほどの検証でようやく形になった極小タンク。

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Chapter 4

日本人のマナーの良さで救われる。

日本人のマナーの良さで救われる。


水洗レバーにも強度と耐久性をとことん追求した。

しかし、ようやくの思いでタンクの小型化に成功しても次の難題が。それは耐久性です。もちろん家庭用をはるかに超える使用回数を想定した耐久テストはクリア済み。ただ家庭ではありえないことを、パブリックでは想定しなければならない。たとえばタンクの上に乗ったり、レバーを足で蹴られたり。要するにマナーの問題ですから、対応するための根拠を設定するのが難しい。まさかそんなことまで、と思っても先輩方から厳しい追及がある(笑)。そこで僕も含め、数人で実態を調査することに。駅や高速道路のサービスエリア、コンビニまでヒアリングに行きました。その結果、幸いなことにいまの日本では意図的な破壊はほとんどない。ならば、いちばん問題なのがタンク天面への荷重。人が乗らなくても、重い荷物を置くことは十分考えられますよね。


タンク底面を補強する鋼板はパブリック用ならではの工夫。

極限までタンクを小さくするために、今回は素材に樹脂を使っています。より薄く、精密な形状を形成するには、陶器より樹脂の方がいい。でも荷重を考慮したら、やはり補強にはこだわりたい。安全性は非常に重要度が高い課題ですからね。でもタンクの中はすでに部品でいっぱい。もちろん貯水量3Lも死守しなければなりません。そこで結露防止用カバーに強度を持たせて、タンク内上部を補強。さらに底面には鋼板を入れて補強と外観では見えないところもこだわりを入れました。パブリックならではの難しさには振り回されましたね。でも逆にそれがおもしろかったし、良い経験になった。開発の醍醐味が味わえたと思います。苦労しただけあって、タンクは最高の出来栄え。間違いなく、この「フラッシュタンク式」は、これからのプラットフォームになる。2020年東京オリンピックの頃には、これがパブリックトイレの定番になっていればうれしい。いやきっとなるはず。それだけの自信作です。

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編集後記

編集後記by Yayoi Okazaki


苦労の末、完成したタンクと一緒に中村さんもにっこり。タンクの存在感のなさに注目して!

いや、本当に盛りだくさんの取材でした。特に驚いたのがタンクの中。まさかこんなスゴイことになっていたとは! 我が家のタンクは鎖にゴム風船が付いた古いタイプなので、部品が目一杯詰まったタンクには感動しました。単に水を貯めるだけじゃなく、効果的に洗浄水を供給する、まさにトイレの心臓部なんですね。しかも、正面からだと存在感がまったくないほどコンパクト。部品の小型化に苦しんだ中村さんが「奥行き708mmじゃダメですか?」(目標は壁から便器の先までが700mm)と上司に聞いて即座に却下されたほど、ミリ単位の攻防は熾烈を極めたとか。その成果がハイタンク→ロータンク→フラッシュタンクと呼べるほど、トイレ史上でも画期的なこの製品。ただ使う側の私たちは中を見る機会もなく、その凄さに気が付かない。「タンクはあくまでも脇役ですから」と中村さんはおっしゃるものの、そんなはずないでしょ。6年後の東京オリンピック開催の頃には、きっとあちこちで見かけるはず。海外からのお客様を、この最新鋭パブリックトイレで、おもてなししたいですね。

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