Vol.14 「12人の侍」が挑んだビッグプロジェクト 世界一のecoモデル工場をつくる!

Vol.14「12人の侍」が挑んだビッグプロジェクト 世界一のecoモデル工場をつくる!Text:Yayoi Okazaki Photo:Hiromitsu Uchida

CO2排出量が多い衛生陶器工場の抜本的な改革を。そんな大きな期待に応えたモデル工場が、2012年に完成したTOTO滋賀工場新西棟です。技術者たちの知恵を結集し、環境にとことん配慮した「グリーンファクトリー」は、CO2排出量43%削減に成功。2013年度省エネ大賞で最高賞「経済産業大臣賞」も受賞しました。この工場建設を推進したリーダーは衛生陶器造りを知り尽くした現場からのたたき上げ。社内の誰もが経験したことのない大事業を、どのようにやり遂げたのか? 今回は、TOTOでも前例のないビッグプロジェクトで究極のecoに挑戦した技術者の壮大なストーリーです。

田原 裕之(たはら・ひろゆき)

衛陶生産本部 衛陶技術部
衛陶設備技術グループ グループリーダー
1988年 TOTO入社。

入社以来、衛生陶器製造、生産設備開発に従事。
ベトナム第二工場建設・立ち上げを経て
2009年滋賀工場建設プロジェクトリーダーに。


Chapter 1

巨大プロジェクトへの抜擢は試練?

巨大プロジェクトへの抜擢は試練?


前例のない新工場建設は設計段階から苦難続きだった。

実は僕、現場の作業員として高卒入社したんです。小便器製造からスタートしましたが、それが滋賀工場の旧西棟。まさか自分がその工場を建て替えるとは! 夢にも思いませんでした。ただ、僕はここの生産設備に関しては誰よりも詳しい。問題点がわかっていたし、改善したいことも山ほどあった。だから新工場建設プロジェクトのリーダーに任命されたときは、かなりイケイケな感じでしたね(笑)。でも、とてつもない大事業だと次第に判明し、プレッシャーで押しつぶされそうになりました。そもそも、これほど大規模な新工場建設はTOTOでも初めてのこと。経験者が社内には誰もいないんです。しかもTOTOの生産工場の中では衛生陶器工場のCO2排出が多いことは周知のことで、新工場はTOTOの主力製品である腰掛け便器(洋式便器)を年間58万ピース生産予定。これ、国内生産数の3分1以上ですよ(笑)。そうなると当然、省エネは必須テーマ。最先端の省エネ技術を導入し、TOTOのシンボリックファクトリーをめざせとの重要ミッションまで課せられた。ならば、もう腹をくくって取り組むしかない。みんなに「世界一の衛生陶器工場をつくろう!」と宣言したのです。それが2009年4月1日。延べ6万5,350人が関わることになるビッグプロジェクトが動き出した瞬間でした。

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Chapter 2

焼成窯がミッションの鍵を握る。

焼成窯がミッションの鍵を握る。

最初に取り組んだのが、生産設備の設計です。既製品がほとんど使えないから、すべて自分たちで考えて設計しなければならない。特に問題だったのが焼成窯。工場全体の76%ものエネルギーを消費していたので、省エネ化のカギともいえる存在です。そこで新たな窯を開発、導入することに。従来のレンガ式ではなく、壁と天井にファイバーを使った非常にecoなローラーハースキルン(焼成炉)に注目しました。レンガだと、熱を吸収するのでかなりのエネルギーを使うし、蓄熱性が高すぎて火入れや火止めに2~3日はかかる。だから、いままでは大型連休じゃないと火を止められなかった。ファイバー窯なら週末でも窯の火をストップできる。また窯内部の高さも極限まで低くすれば、熱効率が従来の2.6倍まで向上する。もちろん排熱も無駄にしたくなかったので、焼成窯だけじゃなく乾燥室にも再利用する画期的なシステムを構築しました。


  • TOTOの便器サイズに合わせて緻密に設計し直された新焼成窯。

  • 111mの窯で15時間かけて焼成される。


この巨大なダクトで排熱を回収している。

ただ設計段階では完璧だと確信していても、稼働してみないと計算通りになるかはわからない。そもそも全長111m36cmものローラーハースキルン(焼成炉)が工場の3階に3本も並ぶ工場なんて世界中どこにもないんですよ。それも元来タイルやセラミックなど薄い製品用だったものを、海外メーカーと共同で高さのある便器用に排熱回収まで織り込んで設計したのだから責任重大です。窯を58等分して海外から船便コンテナで送り、それをまた組み立てて。火入れ式の神事のときは、本当に祈るような気持ちでした。なのに、この窯が稼働し始めて最初の2~3ヶ月はなかなかうまくいかない。くる日もくる日も細かな設定や調整との戦いの日々。工場全体のシステムが安定し、自信をもって「省エネ工場」と呼べるようになったのは、稼働から1年後のこと。それまでは、気が休まる時がなかったですよ。でも、最終的には従来の窯に比べて71%の省エネ化に成功した。これは想定以上の出来だし、この窯は僕のいちばんの自信作にもなりました。

そもそも便器は原材料が泥。焼き物だから、ものすごくデリケートなんです。たとえば、成形室なら室温30度、湿度70%に安定させないと、焼いた後にひび割れしてしまう。でも80m×30m×6mもの巨大な空間だから、隅々まで空調管理を徹底することがいままで困難だった。そこで、十数か所のゾーンごとに個別空調管理ができるように設計。また思い切って、壁際が常識だった成形室を建物の中心部に配置。通路、部屋を周囲に巡らせ、外気温の影響を最小限に抑える工夫をしました。断熱性が高ければ、空調エネルギーも大幅に削減できるし、不良品が出る確率も激減する。とにかく何を決めるのも、安全、効率、環境貢献を三本柱にして考えました。結果的に、当初の目標だった30%を大きく上回る43%のCO2削減を達成。2013年度の「省エネ大賞 経済産業大臣賞 」をいただいたときは、心底うれしかったですね。「シンボリックファクトリー」として、対外的に認められたわけですから。


  • 成形室の周囲に通路・部屋を配置した英断が省エネ化に大幅貢献。

  • 個別の空調管理によって、安定した室温・湿度を保てるようになった成形室。

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Chapter 3

「12人の侍」と夢の工場造りに賭けた5年間。

「12人の侍」と夢の工場造りに賭けた5年間。

というのは、足掛け5年のプロジェクトでいちばん苦労したのが、意見のとりまとめ。正直、工事直前には既にヘトヘトでした。チームメンバーは自らの仕事に誇りを持つ技術者ばかり。小倉、中津、滋賀、愛知の衛生陶器工場から集結した生産技術の精鋭たちは、まさに「12人の侍」。何を決めるにも意見が必ず割れる(笑)。誰もが自分の経験、出身工場での実績をベースに考えるから、ある意味当然です。でも僕たちが造るのは既存工場の延長線上じゃない。将来を見据えた「シンボリックファクトリー」にふさわしい答えを探さなければならない。だから1つのことを決めるのに何十回と図面をひく。それでも意見がまとまらなければ、リーダーの僕が結論を出す。失敗は許されない。そんなプレッシャーの連続だったので本当にきつかった。でも、いつも支えになったのが、同じ夢にむかって挑み続けた戦友ともいえる仲間の存在と、こんな大きな仕事ができることへの感謝の思いです。だから「こういう道もあるんだな」と、現場で働く人たちに知ってもらえればありがたいなと。事実、チームの主力メンバー12人のうち、7人が僕と同じ「現場の出身」。工場で働いていたからこそ、わかることも多い。その視点も随所に取り入れた新工場は、働く人みんなの「夢の工場」になったと、胸をはって言えます。また次の機会があれば? もちろんやりますよ。だってこんな経験、誰にでもできることじゃない。本当に素晴らしい仕事をさせてもらったと、いまでは思います。


  • 3本目の窯設置現場で。施工責任者のウィリー氏とも長い付き合いになる。

  • 「事例部門」初エントリーで、省エネ大賞 経済産業大臣賞を受賞。

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編集後記

編集後記by Yayoi Okazaki


体験型ショールーム兼用のトイレ。超節水便器は見学者にも大好評。

取材後、田原さんに工場内を案内してもらいました。やはり話題の窯はものすごい迫力! 3本目の窯を設置している現場も見学できましたが、田原さんは施工担当の外国人技師とも親しげに挨拶。長い共同作業を通じて信頼関係が結ばれている様子が、そばで見ていてもよくわかりました。また現場の人が快適に働けるようにと、ボタンの位置ひとつまで配慮されているんですよね。特に女性従業員から要望が集中したトイレは、まるでショールームのような凝った内装。もちろん工場内のトイレの便器は、すべてココで造っている最新型。これなら働く人も自分の仕事に誇りを持てるはず。まさに「夢のトイレ工場」でした。「歴史の1ページに参加できた満足感がありますね」と、工場を眺めながら感慨深そうな田原さんですが、昭和37年竣工の旧滋賀工場西棟建設現場では、お父さんが施工者として働いていたとか。あとから聞いて驚いたそうです。親子2代が新旧工場立ち上げに偶然関わる不思議な縁。やはりこの仕事は田原さんの「宿命の仕事」だったんでしょうね。

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