TOTO×マガジンハウス 環境と建築


Vol.13 小さな矢印の集合からつくる、CAtの21世紀の建築。

Text:Sawako Akune Photo:Kanako Nakamura

単純化・合理化された20世紀的建築からの脱却。

高機密高断熱で、どの部屋も一様の明るさや温度・湿度が確保されている……。
20世紀の建築が目指してきたのはそんな建物だったのではないかと思います。
そこで大切にされていたのは、たとえばオフィスなら生産性が上がることや、
迷わずに歩けること。とても単純化されていて、合理的目的主義的でした。
でも私たちは、そういう建物ばかりになってしまうと窮屈じゃないかなと
ずっと思ってきたんですよね。建物が建つことで人間が不自由になるのに
違和感があるんです。建築は都市の環境を作る要素でもある。
だからこそ、もっと開放的で居心地のよい建築があった方がいいと思えるんです。
では“居心地のよさ”を決めるのは何なのか。突き詰めて考えていくと、
風や熱や光、さらに音やそこにいる人間の動きの“流れ”だと私たちは思っています。
“居心地のいい状態”は、個々人によってさまざまで
「天気のいい日の昼間に屋上でビールを飲んでいる時」とも
「そよ風が吹き抜け、柔らかな日差しも入る初夏のバスルーム」とも言えるでしょう。
あるいは、土地の気候や文化によっても違ってきますよね。
実際に僕らが建築を作ったところだと、カタールや中央アジアといった土地が
ありますが、夏には気温40℃を超え、湿度90%にもなるカタールでは
日差しは遮るのがいちばんだし、夏は気持ちいい反面冬が長く厳しい
中央アジアでは、冬の日だまりは何より居心地のいい場所になる。
いずれにせよ、それらは今挙げた風や熱や光などの“流れ”が、
その土地の気候や人の好みにとって最適のバランスになっている状態なんですよ。
そこで、この“流れるもの”をいかに建築の中でコントロールしていくか、
空調をはじめとするハイテク機器類に頼らずにつくれるかが、
私たちが建築を考えるときの重要なテーマになってくるんです。

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熊本県宇土市立宇土小学校 Photo:CAt

建物自体ではなく、設計のプロセスにテクノロジーを導入する。

“流れるもの”は、風にせよ熱や光にせよ、図面上では矢印で描くことができます。
住宅の断面図などで、風の抜け方を描いた絵を見ると、大抵は大きな一つの矢印で
描かれていますよね。でも、実際に空間の中で起きるのは、
大きな矢印の流れなんかではなく、小さな小さな矢印の集合なんですよ。
20世紀の建築が、単純化された大きな矢印に合わせて作られた、標準的な空間だったとしたら、
これからの建築は、小さな矢印を単純化して整理してしまうことなく
そのままに扱っていくべきなのではないかと思うんです。
建築空間で、今挙げたような“流れるもの”を扱う際には、
流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)によるシミュレーションが有効です。
10年ほど前にベトナム・ハノイで実験集合住宅を作った辺りから、
この手法を取り入れてきました。当時は大学で行う研究だから取り入れられる
レベルの高度なシミュレーションだったのですが、
今ではパソコンのアプリケーションやスマートフォンのアプリにすらなっていて、
私たちの事務所のスタッフでも簡単なシミュレーションなら行える。
設計の際にはこのCFD解析と経験値を重ね合わせて、
「小さな矢印」の動きを見ていきます。
“居心地のいい状態”の表現はいろいろある、と先ほど言いましたが、
僕らはこれまで「猫がいる場所」みたいな言い方もしましたね(笑)
今は、少なくとも日本で多くの人が腑に落ちる表現として
「雑木林にいるような感じ」と言っています。
雑木林とは、森ではなく、生活のそばにあるいわゆる里山のこと。
木々の間から強すぎない光が漏れ、虫がいたり動物がいたりと様々なことが起きて、
日だまりは暖かいけど木陰に入ればひんやりとしていて、
足の裏は落ち葉を踏み、うるさすぎない音も聞こえる……。
そういう状態を、建物の中にいながらにして感じられたらいいな、と。
要はどんどん発達していくテクノロジーをどこに使うかということでもありますね。
建物自体にテクノロジーをくっつけて機能性を上げてきたのがこれまでの建築、
私たちはむしろ、テクノロジーを設計の段階で導入して、
より人間に寄り添った建築にしていきたいんです。

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スペースブロック・ハノイモデル
Photo:CAt

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流れるものを小さな矢印として考える

風、熱、光、そして人の流れ
土地の気候と居心地の良さで
コントロールする。
テクノロジーを建物自体に使わず、
設計の段階で導入して、
流れを整えてつくる
CAtの建築、街づくり。

小嶋 一浩(こじま・かずひろ)

CAtパートナー 横浜国立大学建築都市スクール”Y-GSA”教授1958年 大阪府生まれ。1982年 京都大学工学部建築学科卒業、1984年 東京大学工学部建築学科修士課程終了。1986年 同大学博士課程在籍中にシーラカンス一級建築士事務所を共同設立。1988〜91年 東京大学建築学科助手、1994年 東京理科大学助教授。1998年 シーラカンスアンドアソシエイツ(C+A)に改組、2005年 CAtに改組。2005〜11年東京理科大学教授、2011年〜横浜国立大学建築都市スクール"Y-GSA"教授。

赤松 佳珠子(あかまつ・かずこ)

CAtパートナー 日本大学、法政大学、日本女子大学、神戸芸術工科大学非常勤講師 1968年 東京都生まれ。1990年 日本女子大学家政学部住居学科卒業後、シーラカンスに加わる。1998年 シーラカンスアンドアソシエイツ(C+A)に改組、2002年より パートナー、2005年 CAtに改組

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