TOTO×マガジンハウス 環境と建築:Vol.12 住まい方、建物の寿命を考えた  成瀬友梨さん、猪熊純さんのリアルな建築。


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Photo:Kanako Nakamura

HOUSE VISIONでは理想のトイレをお見せします。

猪熊 住居ではありませんが、同じような発想でシェアオフィスも手がけました。
東京都渋谷区にあるTHE SCAPE(R)というコ‐ワーキングスペースです。
成瀬 もともとは隈研吾氏の設計した集合住宅のリノベーションですが、
その中にフリーアドレスのオフィスを作って、SOHOとして貸し出しています。
猪熊 借り手には自営業の人もいますが、社員としての勤務先がある人もいます。
シェアオフィスだから、トイレなどの水まわりは集約できるから、その限りではエコです。
ここでトイレに目を向けてみると、例えばTHE SCAPE(R)の賃貸契約をした人は、
自宅を出て会社にいない時間には、ここのトイレを使うことになります。
こういう生活様式が広がると、人は自宅にある“自分だけのトイレ”を
所有・使用するのではなく、利用権のあるトイレをあちこちに持つことになるといえます。
したがってシェアオフィスが増えることで、
場所ごとの水まわりの設備数は減ったとしても、
社会全体に存在するトイレの数が減るわけではないと思います。
いくつもの場所に、その場に特化した水まわりができるということは、
水まわり設備作りも個性が求められてくるはずです。
例えば、暖かい保養地に避寒客用のトイレを作るならば、
陽気で開放的な仕様であってもいいのではないでしょうか?
成瀬 シェアというと分かち合う空間ばかり注目されがちですが、
そういう住まいの中で一人になれる瞬間も非常に大事で、
その最たるものがトイレと浴室でしょうから、
これは私たちにとっても重要なテーマです。
そこで、今回のHOUSE VISIONでは水まわりの提案をすることにしました。

HOUSE VISIONとは「新しい常識で都市に住もう」という理念のもと、多数の企業や専門家と協力して、これからの日本人の暮らし方と住まいの可能性、方向性を探る活動です。明治以降の近代化は日本人の生活を一変し、西洋化をもたらしましたが、経済的には豊かになっても、物質だけでは満たされないことも思い知らされました。けれど、日本ならではの緻密な物作りの伝統と歴史は連綿と続き、気づけば情報機器のような知能を持った家電に生活を支えられ、それどころか家自体が一つの大きな総合的な家電製品のように進化を始めています。住まいをインターフェースに世界につながる時代が到来する前夜に、人が人に立ち戻る水まわりの空間には、どんな可能性が期待できるか。二人は考えます。

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HOUSE VISIONで提案されているトイレの模型

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壁面、床まですべて本当の緑で覆われている

成瀬 古く、伝統的な日本家屋ではトイレは往々にして家の片隅に追いやられがちであり、
暗く、それどころか窓さえないような窮屈な空間であることが多かったと思います。
まず、これを根底から覆そうと思いました。
どんなトイレが理想的かと、自分たちなりに議論を積み重ねた結果、
屋内でありながら自然が感じ取れるような空間にしようという結論に達しました。
見渡す限りの緑を実現するため、壁面には本物の植物をしつらえ、
足元にも緑を広げるために、床面に窓を設け、その下にも緑を配しています。
足元の眺めを確保するためと、使用中に浮遊感も味わえるよう、
日本の住戸には珍しい壁掛け式の便器を用いました。
これなら掃除も簡単で清潔に保ちやすいと思います。
猪熊 外界を限りなく室内に取り込んだ、いわば逆転の構造になっています。
同じ発想のバスルームとユニット化して、住居以外にも商業施設などでの利用も可能でしょう。
ジャグジーに組み合わせても、非常に快適なバスルームができると思います。
住まい方の事情が変わり始めている以上、最終的には必ず何かしら水まわりの製品にも
影響は及ぶに違いないでしょう。これに対応していくのは大変かもしれませんが。

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屋内でも自然が感じ取れるトイレ空間

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室内にはサントリーが展開する壁面緑化システム「ミドリエ」を採用

建物の適切な寿命を考える広義でのエコへ。

猪熊 環境への配慮に関して、僕たちは狭義の“エコ建築”とは微妙な距離感を
保っているように思います。CO2の排出量が少ないとか、エネルギー使用効率が
高いことがエコだとするなら、エコでありさえすればいいのだろうかと考えます。
細部のエコにこだわることも大事ですが、もう少し大きな枠組みで全体を捉え、
建物の寿命を適切にデザインすることの方が大事ではないかと思っています。
例えば、震災後の被災地に100年以上もつ鉄筋コンクリートの建物を人数分建てたとしても、
日本中の他の地域と同じようにこのまま人口減が進んで、いつか半分になったとしたら、
せっかく建てた建物の半分はコンクリートの廃墟になり兼ねません。
それがもし全部エコ建築であったとしても、未来の廃墟を作ることに変わりません。
だから、建築を考える際に、その建物を何年使うのか。使い終わった後はどうするのか…。
建物の適切な寿命を考えるなら、ともすれば耐震性や防火性で評価の低い木造という
選択肢が実はがぜん賢明に見えてくるように感じられます。
使い終わったら、燃やせばゴミになりません。コンクリートは産業廃棄物になります。
成瀬 震災の年に被災地から「カフェがほしい」という声が寄せられて、設計したのが
りくカフェです。三角屋根のシンプルな作りで、工期も10日間程度で済みました。
本当はすべて東北産の木材で作りたかったのですが、
まだ工場も復旧していなかったので国内外の木材でまかないました。
仮設の申請しかできない時期でもあり、2年3か月で解体して、
その木材をまた別の場所で再利用する案です。期限付きの建物ですから、
実はそれ相応のスペックにとどめました。防火性能が少しだけ低い設計です。
猪熊 今後、社会が縮小していく過程で、それほどエネルギー効率や最高の性能を
追求しなくてもいい建築があってもいいのではないでしょうか。
実年世代が末永く住む、よく工夫の凝らされた住居と、いずれ巣立っていく世代が
一定期間だけ住むシェアハウスに、同じ“超高性能”を求めるのではなく、
住みやすいが、バスルームはシャワーブースだけといった簡素な設計で作っておけば
賃料も抑えられて、居住者にはメリットかもしれません。
木造の空き家を最低限の予算で改修し、使い終わったら壊してもいいと思います。
こういうことを視野に入れると、従来のリノベーションでは
使いようがなかったような部屋にも使い道の出てくるシェアハウスには
可能性があると思います。

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陸前高田市のコミュニティスペースとなっている「りくカフェ」

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建物を再利用するため、易解体できる工法を採用

 

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