TOTO×マガジンハウス 環境と建築


Vol.12 住まい方、建物の寿命を考えた 成瀬友梨さん、猪熊純さんのリアルな建築。住まい方、建物の寿命を考えた 成瀬友梨さん、猪熊純さんのリアルな建築。

Text:Masahiro Hiromatsu Photo:Kanako Nakamura

水まわりと共用スペースのシェアでコストダウンを実現。

気鋭の建築家であると同時に、大学の助教として後進の育成にもあたる二人は、
学生たちの価値観や住まい方の変化にも興味を持って見守っていました。

猪熊 友だちと一緒に住んでいるという学生が増えたようです。
僕が学生の頃は友だちと同居している学生は1学年に一人か二人しかいなかったけれど、
今は感覚値としては3分の1ぐらいいるような気がします。
ならば、そういうニーズに特化した建物を作って、しっかり運営すれば、
新しい不動産ビジネスモデルが成り立つと思うんです。
成瀬 これは実は学生特有の変化ではなくて、彼らが社会人になってからも、
不動産に対する所有欲は相当低いままだと思います。
結婚は遅くても構わないとか、何ならずっと一人でも構わないという人もいるから、
一生賃貸でもいいと考える消費者は確実に増えていくでしょう。
ちょうど乗用車への興味が薄くなったのと同じだと思います。
買わずに、必要な時だけエコカーをレンタルで借りればいいという感覚です。
猪熊 以前、予算の少ない集合住宅の設計を依頼されたことがありました。
全室個室にすると事業収支がとれないため、リビングや水回りを集約・共有する
シェアハウスにしたら、ぎりぎりで採算が合うことが分かりました。
その時にシェアハウスを面白いなと感じて、その後の依頼でも施主に提案してきました。
今は名古屋市で1棟を建築中です。
成瀬 1階に共用のラウンジ、キッチン、シャワーやトイレなどをまとめると、
建築費はかなり抑えられます。ただ掃除などに業者が週に何回か入る、
ホテルみたいな暮らしになるので、ワンルームと比べてそんなに家賃は安くなりませんが。
猪熊 ホテルと集合住宅の中間みたいな住居だと思います。
成瀬 共用のスペースを充実させた結果、個室はコンパクトになり、
収納を含めこの物件は各室8畳です。
既に運営されている各地のシェアハウスの事情を聞いてみると、
共用のリビングに集まって、居住者同士で頻繁に盛り上がっているわけではなく、
パーティを開いたとしても月に1回程度だそうです。
朝晩の挨拶はするでしょうが、みなさん生活時間帯が違うから食事を共にするでもなく、
“何でもシェア”ではないそうです。
だから、パブリックスペースでも一人で過ごせるような作りにしています。
猪熊 他の居住者と頻繁に話さなくてはならないような息苦しさは困りますから、
パブリックスペースでも一人で静かに読書をしていられる、
言ってみれば、カフェが家の中にあるような感じでしょうか。

イメージ

ディテールまで細かくつくられた名古屋のシェアハウスの模型 Photo:Kanako Nakamura

シェアを通じ、居住者に暮らし方の提案もしていきたい。

猪熊 シェアハウスの中には、居住者がほとんどの時間をパブリックスペースで過ごし、
部屋では就寝するぐらいといった生活様式に落ち着く例も多く、エネルギー効率を考えれば、
個室ごとにエアコンを多用する一般的な集合住宅よりは無駄が少ないはずです。
実際にどれくらい省エネにつながるか検証試験をしてみたいと思っています。
ただし部屋への動線にあたる廊下にも空調の行き届く事例も多いので、
本当に高効率かどうかは検証の結果次第です。
成瀬 ただ建築の段階で設備への投資が減るから、環境への負荷は確実に低いと思います。
猪熊 シェアハウスが増え始めている背後には、人口の減少に伴う社会の縮小があります。
高度経済成長期とは違う生活様式や価値観が出現し、家や仕事場といった場所を
占有・使用するのが必ずしも家族や社員のような単位ではなくなり、
その時、その場に用のある人にとって快適、便利であり、そのメンバーによって
場をシェアするスタイルの建物への要望が高まっていると感じます。
成瀬 戦後、人口の増加に伴い“いい暮らしとは、こんなもの”という共通認識から
画一的な集合住宅が無数に生まれたのでしょうが、
人口増加にも歯止めがかかったいま、多様な考え方の共存する時代だと思います。
さまざまな家への考え方に対し、設計者の側からプロトタイプとして
暮らし方の提案もしていきたいと思っています。
例えば、カップルで住めるシェアハウスなど。
シェアといっても、シェアする度合いはさまざまでいいのではないでしょうか。
猪熊 実際にそういう萌芽は既に観測できています。
保育所が併設された、子育て世代に特化した物件が人気を博し、賃料は高めなのに
常に満杯というケースを聞きました。周囲の住戸も同じような子育て世代だから
話をしやすいし、子ども同士も友だちになれる。
子どもが成長し、その家族が転出すれば、次にも同じくらいの年齢の子を持つ家族が入る。
賃貸が市場の主流になると、こういう住まい方も増えてくるでしょう。
非常に興味をそそられる動きです。

イメージ

個室は約8畳。パブリックスペースに閉じられてはいが異なる空間がある

シェアハウス、シェアオフィスの提案で、
住まい方、暮らし方への
日本人の意識の変化に形を与える
新進のコンビ、成瀬友梨さんと猪熊純さん。
自分だけのものを所有することなく、
豊かで環境に優しい暮らしを
建築家の視点でサポートしています。

成瀬・猪熊建築設計事務所

成瀬 友梨(なるせ・ゆり)

1979年愛知県生まれ。2002年東京大学工学部建築学科卒業。04年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。05〜06年成瀬友梨建築設計事務所主宰。07年成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。09年以降東京大学工学系研究科助教。

猪熊 純(いのくま・じゅん)

1977年神奈川県生まれ。2002年東京大学工学部建築学科卒業。04年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。04〜06年叶逞t学建築計画事務所勤務。07年成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。08年以降首都大学東京助教。
09年 INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARDS受賞、DESIGN FOR ASIA AWARDS受賞ほか。場所のシェアをコンセプトに注目作を次々に生み出す。

成瀬・猪熊建築設計事務所の作品はこちらから


NEXT : HOUSE VISIONでは理想のトイレをお見せします。