TOTO×マガジンハウス 環境と建築


Vol.11 自然と親しみ、環境を守る 松井亮さんの都心の家づくり。

Text:Chisa Nishinoiri Photo:Kanako Nakamura

空模様を楽しめる家。

大学院を修了し、東京で事務所を開設したこともあり、
僕が手がける住宅の多くは、東京の都心部であることが多いのですが、
自然の少ない都心の家づくりにこそ、自然をどう取り込むかということを常に意識しています。
環境に配慮した都心の快適な住空間を作るとき、
僕が意識しているのは、内部ではなく外部を作ることです。
屋上緑化や壁面緑化など、緑に囲まれた家。木材や土壁など自然素材の家。
自然や環境を考えた建築の手法はいろいろありますが、特別な手法や素材を用いなくても、
もっとも身近に自然を感じられるものが僕たちの頭上には常に広がっています。
それは、空です。
太陽が昇り沈んで行く1日の流れ。
入道雲やひつじ雲など、春夏秋冬の移り変わり。
空は、人々が環境を意識するもっとも身近なバロメーターだと思うのです。
僕が建築で目指しているのは、そんな空模様を楽しめる家。
何かを持ち込むのではなく、そこにある環境を最大限に生かした家づくり。
自然を取り込みづらい都心の狭小住宅であっても、
敷地と同じ広さの空がどの家にも必ずありますから。
2010年に手がけた港区の家は、敷地面積25坪程度、地上6階建てのRC造の建物です。
5階の屋根にあたる勾配のある屋上に芝生を植え、両サイドの壁を立ち上げました。
周りのビルを視界から遮断することによって、青い空だけを切り取りました。
気持ちの良い全面開口の家は誰もが憧れる理想の家ですが、
周りをビルや家々に囲まれた都心の環境ではなかなか実現することが難しい。
それに、都心の住宅ではプライベート空間の確保というのも無視できません。
あえて囲むとことで、広い空を感じることができる、
都会というシチュエーションを逆手に取った家づくりです。

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グラスビルのベッドルームからの眺め。©Tetsu Hiraga

屋根のないもう一つの部屋、換気をデザインするという発想。

最近のプロジェクトでは、「くぼみのある屋上の家」が現在進行中です。
住宅の屋根って、軒が下がっているのが一般的ですよね。
でも、今手がけているのは、軒を上げた凹型屋根の家です。
港区の家同様、屋上を囲い込むことで、
周りの建物や視線をシャットアウト。
緩やかな勾配によって空と視線の間に遮るものが何もなく、
空をより身近に感じることができる開放感とプライベート感を両立させたアイデアです。
そうして誕生した屋根のないもうひとつの部屋は、
ジャクージを置いて青空入浴が楽しめるほどのプライベート感を確保しています。
一方、凹んだ屋根の下の2階の住空間はどうなっているかというと、
北側をL字型に全面ガラス張りにした大胆な安定採光です。
窓の採光部分は天井が高く、奥に行く程低い傾斜になっているので、
窓から十分な光を取り込みながら、けれど直接目に入らない優しい光が空間全体に広がります。
使用しているのは効果的に熱をコントロールできる「Low-E複層ガラス」。
それによって、全面ガラスであっても高い断熱効果を得られ、コールドドラフト対策をしています。
そして、窓辺にはキッチンを設置。
凹んだ屋根によって上昇気流が生まれ、自然に空気循環ができる。
部屋全体がダクトのような働きをしてくれるので、
換気扇のいらないキッチンが実現するというわけです。
同時に室内につねに心地いい風が吹いているので、体感温度は下がり、
夏のエアコンの使用頻度も自ずと少なくなる――。
換気をデザインするという工夫、
これも、環境に即した家づくりの発想です。
台所も、古くは厠と呼ばれたトイレも、
かつての水まわりは屋外や家の裏側など狭い所に追いやられていました。
でも、水まわりの進化によって建築はますます自由になってきていると思います。
リビングの真ん中、採光が一番良いポジションにキッチンを作ったり、
部屋のすぐ近くにトイレがあったっていい。
水洗や消臭の技術が進化することで、
これまで考えられなかったような空間設計がどんどん可能になっている。
日本のメーカーは進化するスピードがものすごく早い。
建築もそれに伴って、もっと面白いことをするべきかな。
考えるだけでも楽しくなりますね。

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凹み屋根の家 Photo:Kanako Nakamura

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凹み屋根の家。開放的なリビングダイニング。©Ryo Matsui

建物が置かれるシチュエーションを
ゆっくりと吟味して、
自然を感じ、環境に配慮した
都心の家を造り続ける松井亮さん。
間伐材の使用促進の活動と同時に、
設計アイデアと最新技術によって、
環境意識の高い快適な家を実現。

松井 亮(まつい・りょう)

1977年滋賀県生まれ。2004年東京芸術大学大学院修士課程を修了。2008年、株式会社松井亮建築都市設計事務所設立。2011年〜、東京都市大学非常勤講師。コントラクト・ワールド・アワード2010年にて最優秀賞。JCDデザインアワード2012年にて審査員賞。その他、グッドデザイン賞等、多数受賞。

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