TOTO×マガジンハウス 環境と建築:Vol.10 小泉雅生さんが目指すのは  CO2排出量が限りなく少ない家


衣替えする住宅。

「LCCM住宅デモ棟」のプランは、ごく大まかに言って、
北から南へと3層のストライプになっています。
北側のレイヤーは北風から家を守るようなゾーン。
壁がちのベッドスペースをここに収めました。
寝るという行為にあわせて低い天井となっていますが、
冬はもう一枚布団にくるまれたような形で、あたたかな環境で眠ることができます。
逆に日光のあたる南側の帯は熱緩衝ゾーンで、階段や縁側などそれほど滞在時間の長くない場所としています。
そうしてこの二つの帯に挟まれるのが、
天候や時間帯などによる環境の影響が少ない、アクティブなゾーン。
リビング、ダイニングなど、長い時間を過ごす部屋は、このゾーンにあります。
さらにそれぞれの境界には、断熱気密のための建具、日射制御のルーバーなど、
異なる役割をもったレイヤーが挟まれています。
たとえば夏には、南側の窓を開け放ち、ルーバーを閉めると
軒下にスダレを垂らしたような形となり、南側のゾーンは軒の深い、半屋外となります。
逆に冬にはガラスを閉めれば、このゾーンはサンルームのようになります。
そういった形で、季節や時間、住まい手の行動に合せて、レイヤーの開閉、さらにはエアコンのオン/オフを行うことで、さまざまなモードを
つくり出すことができるのです。
そこでは建築は人間の行動に即した、フレキシブルで衣服に近いものになります。

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写真左:LCCM住宅デモ棟は3つのゾーンに別れる。右が熱緩衝ゾーン、中心はアクティブゾーン、左は北側の日光の当たりにくいゾーン
写真中:熱緩衝ゾーンは、冬場はサンルームのように 写真右:熱緩衝ゾーンは、夏場は軒の深い半屋外の縁側に

「LCCM住宅デモ棟」では、このほかにもいくつもの工夫があります。
そのひとつが通風塔。
屋根に飛び出した三角の煙突のような2本の塔があります。
これは一般的な、水平方向に風の通り道をつくる考え方と違って、
垂直方向の風の抜け道をつくり出すものです。
暖まった空気は膨張して軽くなり上へ上がっていきますよね?
そうして上がってきた空気をこの通風塔から逃がす。すると出ていった分
下から冷たい空気が入ってくるのです。
この温度差を利用した換気方法は、自然な風の流れを生み出します。
長い時間、風にあたりすぎると疲れてしまいます。
空気がよどんでいなくて、感じられるかどうかぐらいで動いている
空間はとても居心地がいいものです。

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外から見た「LCCM住宅デモ棟」通風塔

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通風塔は吹き抜けのようになっていて上昇気流を生む

最新エコ住宅と、古代の住まいの共通性。

面白いことにこの通風塔、エジプトの古い文献に記された住居のスケッチに、
とてもよく似たものが描かれているんです。
“日射制御ルーバー”はすだれのようなものだし、“熱緩衝ゾーン”は縁側に近い。
やっていることは、実はそんなに新しいことでも、特殊なことでもないんですよ。
合理性や安さだけではなく、
人間が快適になるための知恵や工夫を素直に選んでいくと、
結局はシンプルで普遍性のあるやり方になっていくんだと思います。

そういう視点から、バスルームやキッチン、トイレといった水回りを考えてみると、
まだまだ考慮すべきところが残っているような気がしますね。
トイレもお風呂も、人が衣服を脱ぐ場所。
つまり人間の身体と建築の間のレイヤーがひとつ少ない状態で、すごく無防備です。
人間が建築にストレートに触れ合う場所なのだから、
ほんとうはもっと身体に近い発想で作らないといけないのだけれど、
見過ごされがちだったように思うんです。
その要因はやはり、湿気や匂いが出ること。
家の中においては“歓迎されざるもの”だから、空間を切り離して、
建築全体のデザインとは関係させずに作ってきたのではないかと思います。
でもたとえば、家の中の風の流れを意識して、
その風下に水回りを置くと発想してみたらどうでしょうか?
そうすれば湿気も匂いも、家の中にはこもることなく出ていきますよね。
家の中に空気の流れをつくり出し、その流れの中に水回りを位置づける
そんなふうに水回りを考えてみたら、
もっともっと面白くなるでしょう。

風、熱、光……。そういったファクターを、適切なテクノロジーを利用しながら
コントロールして、身体に心地いい方向へと導いていく。
これから建築を通じて「環境」を考えるときに大切なのは、そんなことかもしれません。

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Photo:Kanako Nakamura

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Photo:Kanako Nakamura

 

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