TOTO×マガジンハウス 環境と建築


Vol.10 小泉雅生さんが目指すのは CO2排出量が限りなく少ない家

Text:Sawako Akune Photo:Kanako Nakamura

テクニカルな環境、フィジカルな環境。

建築家として、
「環境」を考えるとき、自分にはふたつの方向性があるように思います。
ひとつは、環境工学、材料工学などを応用しながら
テクノロジカルなアプローチで考えていくこと。
専門的な知見をもとに、そこで起きる現象を検証して、数値化して把握していく。
たとえば2004年に完成した「アシタノイエ」では、
新しい材料を使ったり、床暖房を効率化するシステムを考案したりと、
さまざまな実験的な試みを行いました。
そしてもうひとつ、そういったテクノロジーとはある種正反対の身体性に基づいたとらえ方。
環境とは、人間の身体の周囲にあるもの全てです。
身体にいちばん近いのが衣服、その次が身体のおかれる室内の環境、
そして建物の外皮、敷地の外周、街区……と途切れずにつながっていく。
一人一人の人間を取り巻く、シームレスな環境を
自分の身体や感覚を尺度にとらえていく。
より広義の「環境」をターゲットとするスタンスです。
僕自身の環境への興味も、どちらかだけではなく、この両方へと向いています。

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アシタノイエ 内観

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アシタノイエ 外観

究極の環境住宅「LCCM住宅 デモンストレーション棟」で目指したこと。

そういう意味で、2011年につくばの建築研究所に完成した実験住宅
「LCCM住宅デモンストレーション棟」(以下LCCM住宅デモ棟)は、
ふたつのアプローチが上手にバランスしたプロジェクトだったと思います。
“LCCM”は、“ライフサイクルカーボンマイナス”の略。
住宅は建設時にCO2を排出し、その後の生活時にも排出を続けます。
工法や建材を見直し建設に関わるCO2を減らし、
省エネルギー化によって生活によるCO2排出量を削減していき、
さらに、太陽光発電システムでエネルギーを創り出し、
建設時(イニシャル)と生活(ランニング)とをあわせたライフサイクルでのトータルのCO2排出量を
最終的にマイナスにしてしまおうという試みです。
多数の研究者が参加する研究開発プロジェクトでしたから、
さまざまな観点からのシミュレーションをもとに設計を詰めていきました。
環境工学、工法、材料工学……といくつもの分野のエンジニアリングと重ねあわせ
横断的に設計を進めました。
その一方で、身体性にもとづく広義の「環境」も建築のなかに落とし込みたいと考えました。
四季のある日本で、人間の身体や活動にフィットする住宅とするためには、
住まい自体にある種の適応性があるべきではないか? とこれまでも考えてきました。
そこで「LCCM住宅 デモ棟」では、何枚ものレイヤーを重ね着して、
住宅が“衣替えする”ようなプランニングを考えたのです。

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つくばの建築研究所に完成した実験住宅「LCCM住宅デモ棟」

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LCCM住宅デモ棟平面図

LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)、
CO2排出量が限りなく少ない
家を提唱している小泉雅生さん。
最新テクノロジーやを駆使して、
風、熱、光……をコントロール、
フィジカル的に気持ちいい空間を
いつも探求しつづけています。

小泉 雅生(こいずみ・まさお)

1986年、東京大学大学院在学中にシーラカンスを共同設立。1988年、同大学院修士課程修了。2001年〜、東京都立大学大学院助教授。2005年、小泉アトリエ設立。2010年〜、首都大学東京大学院教授。BCS賞、日本建築学会作品選奨などを受賞。主な著書は、『ハウジング・フィジックス・デザイン・スタディーズ』(INAX出版・2008)、『環境のイエ』(学芸出版社・2010)、『住宅の空間原論』(彰国者・2011・共著)『LCCM住宅の設計手法』(建築技術・2012・共著)。

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